13
ひたひたと忍び寄る死の足音に、足が震える。それでも何かを守ろうとその人は懸命に震える手で武器をとった。だが、無情にも死神の鎌が振り下ろされる。
「ぎゃぁ―!」
空に舞う鮮血。手にしていた鍬が地に落ち、倒れ伏す。
「ふふふふっ、いいですねぇ。その声もっともっと聞かせて下さい」
うっとりと歌うように紡がれる言葉が恐怖を誘う。鎌から滴り落ちる赤が、地面に染み込んだ。
「吾作どん!…っ、よくもおら達の仲間を!」
荒らされた田畑に、倒れ伏す仲間。銀髪の髪を三つ編みにし、側頭部で二つに結んだ小さな少女が、自分の体より遥かに大きいハンマーを手に死神をキッと見据えた。
「おや、次は貴女ですか。いいですねぇその目。特に己の無力を悟って絶望に染まる瞬間が一番美しい。あぁ…、考えただけでゾクゾクしてきました」
血で濡れた鎌を撫で、死神は歪んだ笑みで笑う。
「―っ、いつきちゃん!やっぱ駄目だ。いつきちゃんだけでも逃げてけろ!」
「そっ、そうだ!ここはオラ達が!」
少女を守る様に、鋤や鍬を手にした男達が前へ出る。
「みんな…。気持ちは、嬉しい。だども、オラも戦うだ!オラだけ逃げるなんて出来ねぇ。こんな奴に好きにさせるわけにはいかねぇべ!」
グッと腕に力を入れていつきと呼ばれた少女はハンマーを持ち上げた。
「話は纏まった様ですね。まぁ、どちらにしろ逃がすつもりはありませんし。さぁ、美味しく頂くとしましょうか…」
ザザザザザッ、と一気に距離を縮めた死神、明智 光秀の鎌がいつき達に襲いかかった。
ガァン、と武器同士が激しくぶつかる。
鎌がハンマーの重さを受けて僅かに押された。
光秀はその事実にますます笑みを深める。
「くっ、くくくく…」
「なにが可笑しいだ!」
バッと距離をとったいつきに光秀が顔半分を左手で覆い、くつりと笑う。
「雑魚ばかりだと思っていましたが、貴女は中々愉しめそうですねぇ」
「いつきちゃんにはおら達が手を出させな…」
蚊帳の外に追いやられていた彼らがそう口を開くと、光秀は煩いハエですねぇ、と呟き右手の鎌を一閃させた。
「ぐぁっ―!」
「―がはっ!」
「みんなっ!…何するだ!おめぇの相手はおらだべ!」
それぞれ腕と腹を斬られ、痛みに呻き蹲る仲間を庇うようにいつきはその小さな体を前に出し、光秀に向かっていった。
「はぁっ!」
ハンマーを振り上げ、光秀の頭上に落とす。
「おっと」
それをスィと滑るように横に避け、光秀は鎌を振るう。
いつきは地面にめり込んだハンマーを軽々持ち上げ、その場から飛び退く。
そして、再び光秀と打ち合った。
「くっ―、負けるもんか!」
きっと蒼いお侍様が来てくれるべ。それまで負けるわけにはいかねぇべ!
―俺が平和な国を作る。だからお前等は武器なんか持つな。その手にある物は田畑を耕す為の道具だ。人を殺める為の武器じゃねぇ。
―だども、おら達は!
―それに、汚れた手で米なんか作るもんじゃねぇ。そういう事は俺等に任せておけ。俺等が守ってやる。
「…約束、しただっ!だから、おらはおめぇなんかに負けねぇ!」
いつきは迫り来る鎌を弾き、光秀に一撃入れた。
休む間もなく馬を走らせ続けた伊達軍の目の前に、門と橋が見えてくる。それをくぐった先に村が見えてきた。
「あそこか政宗!」
遊士の言葉に政宗は頷き、素早く周囲に視線を走らせる。
「っ、政宗様!あれを!」
同じく視線を走らせた小十郎が何かを見つけた。
「いつき!」
その視線の先には明智 光秀とぼろぼろになりながらも戦ういつきの姿があった。
そこから僅か数歩離れた場所には倒れ伏す農民の姿が。
「Shit!行くぞ小十郎!遊士は農民を頼む」
「任せとけ。彰吾、行くぞ!」
「はっ」
二手に別れた遊士は彰吾と、予め別けられた伊達軍の面々を連れて馬を駆る。
「明智の奴等は気にするな。政宗達が片付ける。とにかくオレ達は農民を最優先で保護だ!怪我人を農家に運び次第、重傷者から順に手当てだ!」
全員に聞こえるように遊士は腹の底から声を出した。
「「了解ッス!」」
心得たと伊達軍の面々は頷き、各自自分の為すべきことのために動き出す。
「彰吾、オレ達は政宗が明智と戦ってる間にあそこの三人を運ぶぞ」
戦っているそのすぐ近くで倒れている農民。
「はい」
彰吾は頷き、遊士と共に農民の救出にあたった。
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