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「綱元」

「小十郎、お前も無事でなによりです」

手綱を兵に預けた小十郎は皆の帰還に喜びの声を上げる綱元に真剣な眼差しを向けた。

「それで、殿の御様子といいあちらで何かありましたかな?」

それを受けて綱元は気付いた事を口にする。

「あぁ。甲斐が織田軍とみられる軍勢に襲撃を受けた」

「…そうですか。それで?」

一つ頷いた綱元は先を促す。

「その戦の仕方から政宗様はその軍を率いていたのは明智だと推測しておられる。俺も政宗様と同意見だ」

「ふむ。そういうことですか。分かりました」

早急に守りを強化し、周囲に目を光らせて起きましょう。

「あぁ、頼む」

小十郎はそれだけ伝えると自らもやるべき事を成す為に城内へと歩を進めた。

「成実。貴方も聞きましたね。遊んでる暇はありませんよ」

「はいはい。分かってるさ」

立ち直った成実は一武将の表情で、綱元に答えた。

「それならさっさと行きなさい」

「まずは警備の強化だな」

成実は文句も漏らさず言われた通り動き始めた。

梵の首は誰にもとらせねぇ。俺達が守る。

普段はおちゃらけている様に見える成実だが、政宗に対する忠誠心は小十郎と同じであった。







もくもくと湯気の上がる水面へ爪先をつけ、ゆっくり身体を沈める。

「〜っ」

風魔にやられた傷がピリピリと痛んだ。

遊士は顔をしかめ、お湯の中から腕を出して伸ばす。

「はぁ、もっと力があればな…」

切り傷のついた細い右腕を左手で撫で、拳を握ったり開いたりする。

政宗の半分でいいから腕力が欲しい所だ。

バシャ、と腕を沈めて壁に凭れ目を瞑る。

「遊士、着替えここに置いておくわね」

「ん〜、Thanks喜多」

外からかけられた声に遊士はそう返して目を開けた。

嫌な予感が止まらない。城に異常は見られなかったし、綱元さんも何も無かったって言ってたのに。

遊士はもやもやした気持ちを振り切る為に、頭からお湯を被り髪を振った。

そして、ザバッと立ち上がる。

「考えててもしょうがねぇ」

喜多の用意してくれた布で身体を拭き、着流しを着る。

「サラシは…、暑いから後でいいか」

サラシを巻かず、手に持って遊士は湯殿を後にした。

「遊士様!」

しかし、それを遊士の部屋の前で待ち構えていた彰吾に咎められた。

「な、何だよ彰吾。いきなり大声出してCoolじゃねぇな」

「Coolでなくて結構です。それより着流しを着たいならサラシはきちんと巻いて下さい」

近付いてきた彰吾に袷をきつく締められる。

「ah〜、だってよ暑ぃんだよ。少しだけならいいだろ」

ジロッと遊士は彰吾を見上げ言う。

「…遊士様。髪から滴が。ちゃんと拭いてませんね?」

「拭いたって。ガキじゃあるまいしそんなはずな…」

ポタッと廊下に落ちた水滴が染みを作った。

ガシガシと髪を拭かれ、遊士はそっぽを向く。

「はい、良いですよ」

「………おぅ」

水気のとれた髪に手をやり遊士はどこか罰の悪そうな顔をした。

自分の事になると遊士は無頓着で、いつも彰吾は気を配っていた。

「いいえ。俺は外に出ますからサラシを巻いたら呼んで下さい」

「……I see.」

彰吾は部屋を出ると髪を拭いた布を近くにいた女中に預けた。

伊達軍は女性もいるがその数は少ない。大半は男。いってしまえば男所帯の様なものだ。

「こればかりは遊士様が自覚して下さらない限りどうにもならない、か…」

そんな輩は此処にはいないと思うが気を付けねば。

「もういいぜ彰吾」

中からまったく気にした様子のない軽い声が発された。

後で喜多殿に相談、いや協力してくれるよう頼もう。

彰吾はスッと障子を開けて入室した、が。

「遊士様…、その姿で足を組むのは止めた方がよろしいかと」

「何でだよ?と言うか、いつになく小言が多いぞ彰吾」

「…………」

日焼けしていない、無駄な贅肉のついていないすらりとした白い足が着流しの裾から見え隠れしていた。





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