10


明朝、まだ陽の昇らない中小田原城に数名を残し伊達軍は出立した。

先頭を行くのはもちろん政宗、その少し後ろを遊士が駆ける。

手綱を持たずに走る政宗に遊士は今度オレも試してみようかなぁ、とポツリと溢した。

「ah?何か言ったか遊士」

政宗の耳に届いたのか、政宗は遊士を振り返った。

「ん〜何でもない。それより、奥州にはどれぐらいで着く予定なんだ?」

「そうだな。何事もなけりゃ陽が真上に来る前には着く予定でいる」

それは何かあるかも知れないってことか?

眉を潜めた遊士にさらに声がかかる。

「Don't worry.伊達軍はそんなに柔じゃねぇ」(心配すんな)

政宗の言葉通り、道中どこぞの忍が襲い掛かって来たりもしたがそれを伊達軍は逆に返り討ちにした。

遊士は東の空が白んで来たのを視界に捉えながら、馬から降りた小十郎の背を見つめた。

その先には忍を後ろ手に拘束し、地面に押さえ付けている己の家臣がいる。

小十郎は左手で刀をスラリと一振り抜くと、彰吾に地面へと押さえ付けられている忍の首筋に宛がった。

「政宗様を狙うとはてめぇ何処の忍びだ?言え」

「さっさと吐いた方が身の為ですよ?」

ギリギリと彰吾は捻り上げている忍の腕に力を入れる。

「何て言うか、最強コンビだな。小十郎さんこえぇ」

「怒らせるともっと怖いぜ」

それを命を狙われた側の人物はそんな事をまったく感じさせずに悠々と見ていた。

結局忍は最期まで口を割らず、奥歯に仕込んでいた毒薬で命を絶った。

「申し訳ありません政宗様」

「良い、気にするな」

刀を引いた小十郎に政宗は首を横に振る。

「嫌な感じだぜ…。彰吾、もういい」

「はっ」

遊士に言われ、彰吾も忍から手を離すと立ち上がった。

「何処の手の者か分かれば良かったのですが…」

「だが、失敗したとなりゃもう襲ってはこねぇだろ」

もう夜も明ける。暗闇に乗じての暗殺には不向きだ。

政宗は東の空に目をやり、肩を落とした彰吾にそう返した。

「それより急いだ方がいいかも政宗。何か嫌な予感がする」

自分で言うのもなんだがオレの勘は嫌になるぐらいあたるのだ。

遊士は奥州のある方向を見つめ、政宗にそう告げた。

「OK.飛ばすぞてめぇら!ちゃんとついてこいよ!Are you OK?」

「「Yeah――!!!」」

再び奥州へ向けて走り出した政宗と遊士の後ろを小十郎と彰吾が駆ける。

「政宗様はあぁ言われたが、油断はするなよ彰吾」

「はい、分かってます」

彰吾は前を行く二匹の竜を真っ直ぐ見据えて頷いた。







余計な邪魔が入った事で奥州に着いたのは、陽が真上に昇り少し西へと傾いた頃だった。

「お帰りなさいませ、殿。遊士様もご無事でなにより」

「綱元、留守の間何か変わったことはあったか?」

「ただいま綱元さん」

馬を出迎えた兵に預け、政宗は聞く。

「いえ、特にこれといってありません。強いて上げるなら成実が煩かった事ぐらいです」

同じく出迎えた成実が綱元の言葉に反論の声を上げた。

「煩かったって、ひでぇ!俺は梵が居なくて寂しいだろうと思ってな…」

「そうか。Thanks 綱元。ご苦労だった」

成実を無視して政宗は話を終わらせた。

「ちょっ、梵!俺には何も無しかよっ」

政宗後に続いて馬から下りた遊士は、騒ぐ成実に声をかけた。

「よぉ、成実。お前の煩い声聞くと帰ってきた気がするぜ」

「遊士まで!!俺ってそんなに煩い!?」

「煩いっていうか存在事態が騒がしい」

ショックを受けてる成実の横を通り、遊士は成実の背を軽く叩いた。

「Jokeだ、成実」(冗談)

ニヤリと愉しげに笑った遊士は政宗と一緒に城内へ歩いて行く。

「遊士、喜多に言って先に湯浴みで汚れを落として来い」

「政宗は?」

「俺は後でいい」

そんな遊士の姿に彰吾は苦笑を浮かべた。

「まったく遊士様は。帰ってきたのが嬉しいならそう口に出せばよろしいのに」

彰吾は綱元と成実に挨拶をして素直じゃない主の後を追った。



[ 33 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -