08


ザシュッ、と左の刀が風魔の肩からわきの下にかけて袈裟斬りに入る。

「これで終わりだ、風魔 小太郎!」

遊士は止めとばかりに、刀を振り抜き、右足を風魔の腹に埋めた。

「………!!」

空気の塊を吐き出すような音がし、風魔は後方に飛ばされ城壁に叩きつけられる。

ビシィと風魔を中心に城壁にヒビが入り、風魔は崩れ落ちた。

「…っはぁ、はぁ」

終わった、か…?

遊士は息を弾ませ、動かなくなった風魔を見つめる。

パリパリッ、と雷を帯びた刀を軽く振って逃がすと鞘に戻した。

「遊士様!」

「…All right.何とか、終わったぜ」(大丈夫だ)

片手を挙げて返事を返した遊士の姿に彰吾は眉を寄せた。

致命傷になるような傷はないが、その分切り傷が多い。

「手当て致しましょう」

「ah?こんなもん掠り傷だ。ほっときゃ治る。それより政宗達を追うぞ」

歩き出そうとした遊士の腕を掴み、彰吾は止める。

「なりません。先に手当てを」

貴女は気にもしないだろうが、傷が残ったら大変だ。

「大丈夫だって。それに…」

その時、遊士の言葉を遮るようにどこからか勝鬨の声が上がった。

政宗は無事勝ったみたいだな。

勝鬨の声に安心した遊士は、彰吾に丸め込まれ傷の手当てをされた。

治療道具は政宗が置いていった部下が持っていた。

準備の良いことで…。

なんか面白くない。

「風魔相手に無傷で済むわけないと政宗様は思ったのでしょう。感謝こそすれ不貞腐れるものじゃありませんよ遊士様」

どこかムスッとした様子でそっぽを向いている遊士に彰吾は続ける。

「これだけで済んだから良かったものの…」

「あ〜もう、分かった、分かったよ!Shut up!」(黙れ)

オレって、そんなに信用ないのか?危なそうに見えるのか?

風魔を倒して高揚していた気分が段々萎んでいく。

むっと眉を寄せた遊士の右頬に、彰吾は薬草を練り込んだ傷薬をつけながら言う。

「思い違いをしてはなりません。信用しているからこそ政宗様も小十郎殿も貴女にこの場を任せたのです」

遊士は明後日の方向を見ていた視線を、目の前の彰吾にゆっくりと移す。

「お前さ…」

「何です?」

薬を付け終え、彰吾は側にいた伊達兵に治療道具を返す。

「この間も言ったけど、人の心の中読むなよ。無意識に口に出してたかと思うだろ」

「遊士様が顔に出し過ぎなのです」

「……まぁ、お前の前だけならいいか」

ちょっと考えて、遊士は諦めた。

さて、行くか。と足を踏み出した所で向かい側から誰かがこちらに歩いて来るのが見えた。

「あれは、…小十郎さん?」

「「片倉様!!」」

遊士の後ろに居た伊達軍の兵達も小十郎に気付くなり声を上げた。

「片倉様、筆頭は!?」

「北条倒したんスよね!?」

小十郎は兵達の声に頷き、政宗様はこの先で待っておられる。と言った。

「お前達は先に行ってろ」

「「はいっ!!」」

兵達を見送り、小十郎は遊士と向き合う。

そして、無数の切り傷を目にして顔をしかめた。

「怪我を…」

「掠り傷だ。彰吾に手当てしてもらったし何ともない」

遊士は小十郎の言葉を遮り、そう言ったが小十郎の眉は寄ったままだった。

「小十郎殿、何か用があったのでは?」

勝ち戦だったとはいえ政宗を一人にしてきたのだ。

彰吾は真剣な表情で聞いた。

「あぁ、そうだ。遊士様、風魔はどうしました?」

「風魔ならソコに…、居ない!?」

風魔が倒れ臥していた先を見るがソコには何も無かった。

血痕すら見当たらない。

「Shit!逃げられたかっ」

風魔は浅くはない傷を負っているはずなのに、忽然と姿を消していた。

「いつの間に…」

彰吾も風魔のいた場所を凝視して呟いた。



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