05
応えるように政宗の六爪にも蒼白い光が走る。
と、同時にザリッと二人は正面から突っ込んでいった。
「ha―――!!」
「うぉぉぉ――!!」
―ボンッ
だが、まさに刃を交える寸前、どこからか煙玉が投げ込まれ視界が遮られた。
「そこだっ―!」
フッと幸村と政宗の間に揺らいだ人影が見え、遊士は懐に隠し持っていた短刀を投げ付ける。
キィン、と甲高い音が響き、煙が晴れると、そこには片手に大型手裏剣を構えた迷彩柄の男がいた。
「危ないなぁ〜」
「佐助っ!」
「Shit!邪魔すんじゃねぇ」
一騎打ちを止められた形になった幸村と政宗が間に立つ男に非難の声を上げる。
「俺様だってこんな不粋な真似したくなかったんだけどねぇ。旦那、甲斐が危ない。至急戻れって大将が」
「甲斐が?」
幸村は槍を引き、佐助を見る。
「あぁ。大将の不在を知って何者かが甲斐に攻撃を仕掛けてるらしい」
「何っ!?」
すぐ側で佐助の言葉を聞いていた政宗も六爪を引くと鞘へ納めた。
「ちっ、興が醒めたぜ」
くるりと背を向け、政宗は自軍の元へと歩を進める。
その意図を悟ってか幸村がその背に声をかけた。
「忝ない、政宗殿」
「悪いね、竜の旦那」
武将同士が勝手にやりあってんなら放っておいても構わないが、そこの迷彩が言うにはやられてるのは武器も力も持たない民らしい。
遊士も政宗の行動に添うように、側に突き刺さっていた朱塗りの槍を抜く。
「Hey、真田 幸村ァ!忘れ物だぜ」
持ってみると意外と重量があった槍をポイッ、と投げてやった。
「すまぬ。ん?お主は…」
その時になってようやく遊士達の存在に気付いたのか幸村が首を傾げた。
「旦那、今はそんなことしてる場合じゃないだろ」
「はっ!そうであった。皆の者、全速力で甲斐へ戻るでござる!」
幸村を先頭に紅い軍団は来た時と同じ様にサッと去って行った。
「この分じゃ川中島での戦も中断されただろうな」
「そうでしょうな。あの二人は長きに渡り幾度となく戦ってはいますが、民を思う気持ちは同じでしょうから」
政宗が愛馬に跨がり馬首を返す。
「帰るのか?」
遊士がそう聞けば、小十郎と話していた政宗はニヤリと笑った。
「No.この隙に北条を落としに行くぜ」
「北条…、氏政か。いいねぇ、楽しめそうだ」
あそこには伝説の忍、風魔 小太郎がいるはず。
「再度申し上げますが呉々も無茶はなさりませぬよう、遊士様」
彰吾は短刀を拾うと遊士に小言を付けて渡した。
北条 氏政が城主、小田原城。
城が見えてきた辺りから北条兵がちらほらと姿を現した。
そして、
「ha!死ぬ覚悟のねぇ奴は引っ込んでな!」
「遊士様!背後が隙だらけです!」
一刀で敵兵を切り捨てた遊士の背後に白刃が迫り、それを彰吾が弾いて刀を斜めに振り下ろした。
遊士はそれを確認することもなく襲い来る次の敵を相手にする。
「オレの背はお前が守るんだろ?」
刀を横一線に振るい、粗方片付けた遊士はニッと笑って振り返った。
彰吾も最後の一人を倒すと、刀を下ろして遊士を見た。
「それはもちろんです。ですが、少しは守るこちらの身にもなって頂きたい」
「おいおい、こんな所で小言は止めてくれよ」
遊士は肩を落として少し離れた場所にいる政宗達の方に向かった。
「…誰かさんを見てるような気がするぜ」
政宗は刀についた血を振って、落とすと呟いた。
「奇遇ですな、小十郎もです。是非無茶は止めて頂きたいものです」
その呟きに、背後から声が返り、政宗はしまったという顔をした。
「ah〜、I take proper measures」(善処する)
栄光門までの道のりをそんな調子で進んだ遊士達は閉じられた門の前で立ち止まった。
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