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小十郎に案内されて廊下を歩いていれば、先にある大広間から多くの人の気配や声が聞こえてきた。

「随分賑やかですね」

「うちの奴等は政宗様を始めとして宴だ何だと騒ぐのが好きな奴が多いからな」

彰吾と小十郎が親しく話すのを見て遊士は二人に分からないぐらい小さく笑みを浮かべた。

よしよし、仲良くなったな。

「オレも宴は好きだぜ。まっ、これで酒が飲めれば尚良いんだけどな」

遊士は気分を良くして軽口を叩く。

「駄目ですよ」

彰吾ににべもなく断られても遊士は機嫌が良かった。

「分かってるって」

大広間へ入れば上座で政宗が待っていた。

「Come on、遊士。お前は俺の横。彰吾は小十郎の横に座れ」

騒いでいた面々も小十郎と遊士達が入って来たのに気づくと自然と口を閉じた。

「いいのか?オレがここに座っても」

確かに上位の人間や客は上座に座す事もあるが、城主の隣とは…。

「Ya、問題ねぇ。それより紹介するぜ」

それぞれ席に落ち着いた所で政宗が声を上げた。

「今朝、見た奴もいるかもしんねぇがこいつは遊士。そっちが彰吾だ。俺の客人だが今日から伊達軍の一員になる。てめぇら仲良くやれよ」

「「Yeah――!!!」」

ほとんどの人間が遊士と政宗の仕合を見、暗黙の了解で入るべからずとされている小十郎の畑に彰吾と小十郎が入って行ったのを見ていた。

それらを総合して、彼らの中には遊士と彰吾、どちらも強者だと勝手に認識されていた。

あながち間違いでは無いが、そんな風に見られているとは露ほどにも思わない遊士達だった。







宴は始まってしまえば無礼講。伊達軍だからか、酒の影響力か遊士と彰吾に声をかける人間が沢山いた。

「今朝の筆頭との仕合見たッス!遊士様強くて格好良かったッス!」

「そうか?Thank you」

フッと笑えばおぉ、くーる!と周りにいた奴等が騒ぐ。

「てめぇら発音がなってねぇな。Coolだ」

政宗は遊士の隣で度々口を挟んだり、酒を飲んだりして楽しむ。

片や彰吾の方も数人が集まり、彰吾を尊敬の眼差しで見ていた。

「凄いことなんですよ!片倉様の聖地(畑)に足を踏み入れる事が出来るなんて。彰吾様、何者ッスか?」

聖地?と首を傾げた彰吾に他の奴等が畑の事です、と説明する。

「あぁ。でも、いくらなんでもその言い方は大袈裟過ぎじゃないか」

「いえ、まったく。片倉様は…」

「俺がどうしたって?」

少し席を外していた小十郎が戻ってくるとペラペラ喋っていた奴は口を閉じた。

宴もたけなわを過ぎ、酔い潰れる者が続出し始めた大広間。

「なんかすげぇ事になってんな。死屍累々って感じ」

一滴も酒を口にしていない遊士は転々と突っ伏す奴等を見て呆れたような声を出した。

「そうだな。そろそろ終いにするか。小十郎!」

横を見れば政宗の顔色はたいして変わっていなかった。

政宗は酒に強いのか?

小十郎と二、三言葉を交わしている。

お開きならオレも引き上げるか、と遊士は彰吾を呼んだ。

「彰吾。もう終わりらしいし部屋に戻るか?」

「そうですね。遊士様は先にお戻り下さい。俺はここの片付けを手伝ってから戻りますので」

話が終わり、声が聞こえたのか小十郎は悪いなと彰吾に声をかける。

「遊士様は政宗様と先に自室の方へお戻り下さい」

「おぅ。小十郎さん、彰吾の事こき使っていいからな」

大広間の入口で待つ政宗の元に遊士は歩を進めた。
彰吾と小十郎、片付けに入った女中達を残し政宗と遊士は大広間を後にする。

「彰吾の奴置いてきたのか?」

「置いてきたって言うか本人が残るって言ったから」

「なら時間はあるな。少し付き合え」

欠けた月夜の下、濡れ縁に座り二人静かに猪口を傾ける。

酒は女中に頼んで政宗がもって来させたものだ。

一杯だけ貰った遊士は味わうように少しずつ飲む。

美味いな。

「どうだ、宴は楽しめたか?」

「楽しかったぜ。ノリがいい奴等ばっかでうちに居た時となんら変わんなかった」

元から大勢で騒ぐのは好きだし、オレの性に合ってる。

「そういやお前すっかり溶け込んでたな。アイツ等も気に入ったみてぇだし」

「だろ?オレもアイツ等が気に入ったよ」

「そりゃ良かった」

風に流れた雲が月を隠すと不意に会話も途切れたものとなった。

しばらく辺りを暗闇と静寂が包み、再びゆっくりと風が吹く。

遊士は空になった猪口を盆の上に戻し、明るさを取り戻し始めた月を見上げた。

「…なぁ、遊士。お前の所に戦はあるのか?」

政宗も猪口を置くと月を仰いだ。

「戦って言われる程大きな争いはないな。小競り合いなんかはしょっちゅうあるけど」

「人を、斬った事は?」

真剣さを帯びた声が隣から発される。

それに遊士は欠けた月を眺めながら答えた。

「…ある。でも後悔した事は一度もない」

真っ直ぐ強い眼差しで前を見据える遊士に政宗はそうか、と一言呟いた。

月から視線を外し、遊士はその眼差しを政宗に向ける。

「政宗。戦になったらオレも連れてけよ」

「言われなくても始めからそのつもりだ」

遊士の強い視線を受けて政宗の隻眼にも強い光が灯る。

「OK、その時を楽しみにしてるぜ」

ニィと口端を吊り上げ、遊士は笑った。

「ha、ドジ踏むなよ」

「踏まねぇよ」

政宗も笑って返し、置いた猪口を手に取る。

遊士は心得たように銚子を持って政宗の猪口に酒を注いだ。





自室に戻った遊士は片付けを終えて戻ってきた彰吾を部屋へ呼んだ。

「オレ達は未来から来た。賢い奴なら歴史を変えない為に時代を動かす様な出来事には関わらないようにするだろう」

はい、と彰吾は静かに聞く。

「だがオレはあえて関わろうと思う。理由は分からねぇがオレ達は今此処でこうして存在している。政宗達の生きる戦国乱世で生きている。何か意味があるんじゃねぇかと思うんだ」

彰吾、そう考えたオレを愚かだと思うか?

「いいえ。本来、未来など誰にも分からぬもの。俺は遊士様が選択した道ならば何処までもついて行く所存」

誓うように頭を垂れた彰吾に遊士は満足気に頷いた。

「ha、良く言った彰吾!それでこそオレの右目。オレは政宗達と共に戦場に出る。分かるな?」

「はっ。遊士様の背はこの彰吾が御守り致します」

奥州青葉城に突如として現れた独眼竜の子孫と右目の子孫。双竜が戦場に立つ。




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