15
顔を背けて寝る体勢をとった遊士の耳が赤く染まっているのを見て、政宗は遊士の後ろでククッ、と声を殺して笑った。
「可愛い所もあるじゃねぇか」
〜っ、馬鹿じゃねぇの。オレが可愛いってありえねぇし、どっちかって言うとオレは格好良く見られたい!
目を瞑ったもののそんなすぐ眠りに落ちる事も出来ず遊士は一人、心の中で反論した。
そしてまた政宗の気配が動いたのを背中越しに感じる。
バサリと音がし、何かが身体に掛けられた。
「…?」
疑問に思い、ソッと薄く目を開ければ寸前まで政宗が羽織っていた青い羽織が自分に掛けられていた。
「春先とはいえまだ冷えるからな」
「………さんきゅ」
ぼそっ、と呟いた声は聞こえたのか聞こえなかったのか政宗から返事はなかった。
温かいな。マジで寝そう…。
それきり静かになった室内にすやすやと寝息がし始める。
「寝たのか?」
「………」
本当に寝るつもりではなかった遊士は、知らぬ間に政宗の青い羽織を握って眠っていた。
声をかけても返ってくるのは規則正しい寝息だけ。
政宗はふと口元を緩め、届かないと知りながらその背に声をかけた。
「言いたくなったら言えばいい…」
己の右目を覆う眼帯に触れて。
ん…、なんか話し声が聞こえる。
「もう少し寝かせといてやれ」
「しかし…」
この声政宗と彰吾だ。
「本当に終わっておられる。毎回こうだと嬉しいのですが、政宗様」
小十郎さんの声もする。
「俺だってやるときゃやるんだよ」
いや、半分はオレがやった気がするんだけど。というか、うるさくて目が覚めた。
ゆっくりと目を開け、声のした方へ首を巡らせばそこには胡座をかいて座る政宗に、机上に纏められた紙の束に視線を落とす小十郎さん、政宗と対面する形で座る彰吾がいた。
「ん?起きたのか?」
気配が動いた事にいち速く気付いた政宗がこちらを向く。
「ん。」
コクリと頷いて、身体を起こした。
その時一緒に掛けられていた羽織がパサリと落ちる。
「政宗、Thanks」
落ちた羽織を拾い政宗に返し、再度すっきりした頭で周りを見渡した。
「げっ、寝過ぎた?」
いつの間にか外は茜色に染まっていた。
「良く眠ってたぜ」
どうりで彰吾と小十郎さんが戻ってきてるわけだ。
バチッと彰吾と目が合うと彰吾は徐にスッと立ち上がり、遊士の前まで来ると片膝をついた。
「遊士様、失礼」
そう言ったかと思えば手が伸びてきて着物の袷を直された。
「あ…」
「あ、ではありません。まったく」
彰吾の後ろでは政宗と小十郎さんが苦笑してこちらを見ていた。
一度自室となっている部屋へ彰吾と共に戻り、宴用にと用意されていた着物に着替える。
もちろん男物だ。こっちの方が動きやすいし、着慣れてるからな。
女物も用意していた喜多さんにはもったいない、と少し残念がられたけど。
「オレこういうの似合わないし」
喜多の手にある鮮やかな青色に細部に柄が入った女物の着物を見つめて遊士は苦笑を浮かべた。
「そんなことありませんわ。きっとお似合いになります」
きっぱりと断言され、その根拠はどこにあるんだろうと疑問に思ったけど言わないでおいた。
藪蛇になりそうだし。
「遊士様、準備出来ましたか?」
「OK、入って来い」
彰吾も用意されていた着物に着替えて入って来た。
大人しめの落ち着いた色合いで、彰吾が大人っぽく見える。
いや、普通に大人なのだがそうじゃなくて。
「彰吾、お前二割増しで格好良く見える」
「何ですかそれ?」
「誉めてんだよ。喜んどけ」
「はぁ…」
逆に、遊士は伊達の色でもある蒼色の着物を身に付け、そこらにいる軟弱な男より男らしく見えた。
「Partyか、楽しみだぜ」
そのすぐ後に小十郎が二人を呼びに来た。
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