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主君を守るために疑ってかかるのは悪い事じゃねぇ。だがな彰吾、見極めは必要だ。

それはこの短時間でよく見ていると思うほど的確な答えだった。

彰吾は暫し黙り、顔を上げると小十郎の瞳を真っ直ぐ見つめて直球勝負に出た。

見極め時は今、ということか。

「貴殿方が俺達の敵になりうる可能性は?」

「先程言った通り俺達は似ている。敵に回るとすれば理由はただ一つだけだ」

その言葉の意味するところ。

つまり、俺からすれば遊士様、小十郎殿からすれば政宗様に害なす者は敵。だが、それ以外はそうではない。と。

分かりやすい公式に彰吾はなるほど、と納得する。

「それ以外ではないだろう。政宗様が客人として迎え入れたんだ。手を出そうなどと思う輩もいまい」

遊士様に何かしようものならそれは政宗様に対する謀反と見なされるだろう。

それを聞いて彰吾は張り詰めていた気を緩めた。

ここは自分達にとって安全な場所だ。

「宴がすんだ後、政宗様はお前達を伊達軍に迎え入れるおつもりだ。監視も外す」

「伊達軍に、って事は戦が起これば戦にも行くということですよね?」

いきなり話が飛び、彰吾は眉を寄せる。

「あれだけの腕だ。政宗様は連れて行くと言うだろう」

難しい顔をした彰吾に小十郎は無理なら何とかするが、と言ったがその心配はないと彰吾は首を横に振った。

「そうではなく、遊士様が暴走しないか心配で」

強い人間を目にすると対峙したくてしょうがないらしく、一人で飛び出して行ってしまわれるんです。まったく、守るこちらの事も少しは考えて欲しいものです。







「っくしゅ!…っ、Shit!!」

「What!?どうした遊士?」

すぐ側でくしゃみをして悪態を吐いた遊士の手元を政宗が覗き込む。

「oh〜、こりゃ派手にやっちまったな」

遊士の手元にある、半分まで書き上げていた書にベッタリと墨が落ちていた。

「誰かがオレの悪口言ってる…」

落ちた墨を睨み付け遊士は言う。

「それを言うなら噂だ」

「どっちでもいい。オレは今からちょっとソイツを倒しに行ってくる」

筆を片手に遊士はスクッと立ち上がった。

「Wait!」(待て)

それを政宗は遊士の着物の裾をつかんで止める。

「止めるな政宗。早く行かなきゃ逃げられちまう」

「一人だけ逃げようとしてんじゃねぇ。そもそもソイツが何処にいんのかもわかんねぇだろ」

意気込んで始めた二人だったが、遊士も政宗も長時間机に向かっていられないたちであった。

「ンなもん勘で探す」

「とにかく座れ。それにその一枚でlastだ」(最後)

「………」

完全に集中力の途切れてしまった遊士は渋々であるが腰を下ろした。

「ったく、とんだunmanageable girlだぜ」(じゃじゃ馬)

筆を片手に何処へ行こうというのか…。

それから遊士は改めて書き直し、筆を置いた。

「っしゃ!終わったぜ!!Mission complete.」

遊士はそう叫んで後ろへバタリと身体を倒した。

その後少しして政宗も筆を置き、お目付け役不在の中で無事執務を終えた。

畳に転がった遊士は身体を解すようにそのままグッと腕を上へ伸ばし、猫のように瞳を細めた。

「はぁ〜、疲れた。オレに執務は向いてねぇ」

その姿に政宗は苦笑を溢し、Thanks、と口にした。

「ん、You're welcome」(どういたしまして)

伸びをしていた右手を口に添え、遊士はふぁ、と出てきた欠伸を噛み殺した。

朝早かったし、眠いな…。

こしっと目元を擦った遊士の上に政宗の声が降ってくる。

「眠いなら寝てもいいぜ。宴の前に起こしてやる」

「ん〜、でも…」

遊士は眠そうにしながら政宗の横顔を見つめた。

意図したわけでは無いだろうが政宗はちょうど遊士の死角、右側にいるのだ。

信用云々以前の問題で遊士はあまり右側に人を置きたくなかった。彰吾は別として。

あれだ、誰もが背後をとられたくないのと同じ感じだ。

ま、政宗は知らないししょうがないか。

言葉を濁したまま目を閉じようとした矢先、政宗の気配が動いた。

何だ?と思ってそちらをみれば政宗が身を屈めて遊士の顔を覗き込んできた。

うわっ!びっくりした。てか、ちけぇよ。

叫ばないまでも遊士は驚いて一瞬固まった。

それに気付いた政宗は間近でニヤリ、と笑いわざと低い声音で囁く。

「別にとって喰ったりしねぇから安心して寝ろよ」

「べ、別にそんなこと思っちゃいねぇよ」

的外れもいいとこだ!遊士は政宗を押し返すと、ふいと顔を背け、ちゃんと起こせよ、と言って目を閉じた。



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