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しかし、政宗はそうではなかった。

「小十郎」

「ですが…」

「分かってる。俺がきちんと執務をこなしゃいいんだろ?」

何やら話をつけてくれそうな政宗に遊士は悪いと思いながら口を挟む。

「あのさ、政宗はオレが見張ってるから彰吾を連れてってくれないか?」

「俺?って、遊士様!?何言ってるんですか!」

名指しされた彰吾は慌てて遊士を止めにはいる。

「少しぐらいならオレも執務の手伝い出来ると思うし。ど?」

だが、彰吾の制止は軽く聞き流された。

政宗は小十郎の小言付き執務と遊士を天秤にかけて考えた。

「OK!決まりだ。小十郎は彰吾を連れて土いじりでもしてろ。最近手入れがどうとか言ってたしちょうどいいだろ」

「政宗様!?」

小十郎と彰吾は困惑したように政宗を見やる。

「反論は受け付けねぇ。You see?」

小十郎は何か言いたそうに口を開いて無駄だと悟り、閉じた。

「…分かりました」

「彰吾、お前もだ」

政宗にそう言われ彰吾はどうすべきかとチラリと遊士を見た。

遊士はその視線を受けて頷く。

「…御意」

小十郎と彰吾がいなくなった後、遊士と政宗は共に政宗の自室に来ていた。

「悪いな政宗。無理言って」

机の前に腰を下ろした政宗から少し離れた場所に遊士は座り、言った。

「No problem。かまわねぇ、ちょうど良かったと俺も思ってる」

筆を取った政宗はそう返して机上に広げた紙に視線を落とした。

「それならいいんだ。で、ちょうど良かったって?」

政宗の言う意味が分からず遊士は首を傾げる。

「少し前まで最北端で起きた一揆の為に城を空けててな。お前の策に乗りゃ小十郎は畑の手入れも出来るし、彰吾ともゆっくり話が出来んだろ」

彰吾の奴、小十郎より警戒心が強いみたいだしな。それが悪いとは言わねぇが。

「気付いてたんだ?」

「まぁな。そういうことは俺等が言ってもどうにもならねぇ。同じ立場の者じゃねぇとな」

そこの紙取ってくれ、と言われて遊士は紙を渡す。

「彰吾はさ、オレが小さい頃から仕えてくれてんだけど生真面目過ぎて過保護過ぎんだよな。たまにはどっかで遊んでくりゃいいのにって思う時があんだよ」

「そりゃお前がお転婆すぎて目が離せねぇからじゃねぇのか?」

「見張りを付けられるような素行してる政宗に言われたくないな」

振り返り、ニィッと口端を吊り上げた政宗に遊士は憮然とした顔で切り返した。

政宗とオレの行動は酷似してるみたいだけど、そんなこと政宗が知るわけない。うん、自分の為に黙っとこう。

「ha、中々言うじゃねぇか」

くくくっ、と肩を揺らして笑う政宗に遊士はどうも、と誉められたようにその顔に笑みを浮かべた。

「それより手が止まってる。さっさと終わらせて小十郎さん驚かせようぜ」

「ah〜、OK。遊士、お前も執務出来るって言ったよな?」

微妙な顔して答えた政宗は次の瞬間そう言ってオレを見た。

…嫌な予感がする。

「いや、オレこの時代にあまり詳しくないし。きっと役に立たないと思う」

自分でさっき言った事と矛盾してるのは百も承知。でも、とりあえず首を横に振って否定してみた。

「安心しろ。重要な書類は俺が捌く。お前はコッチだ」

が、分けられた紙の束を問答無用で押し付けられた。

視線を落とせば近隣の村からの報告、城下であった騒ぎ等を書き記した報告書だった。

せっかく執務から逃げられると思ったのに…。

「お前だって当主ならこれぐらい出来んだろ?」

「まぁ。…最後、確認ぐらいはしろよ」

「I see。さっさと終わらせるぜ」

言った手前、遊士は仕方なく筆をとった。

報告書に目を通し、より重要、早急に手を打つべき案件に、なるべく政宗の筆跡を真似てその返事や必要な事を紙に記していった。

なんでオレはここに来てまで執務してんだ…?

遊士はぼやきながらも奥州の民の為、真面目に取り組んだ。



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