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そんな彰吾に遊士は振り返って心底不思議そうな顔をして首を傾げた。
「変なこと?ただ背を流して欲しいだけだろ?な、政宗」
「That's right!良く分かったな」(その通り)
こちらは遊士と違い確信犯的な笑みを浮かべて彰吾の方を振り向いた。
会って間もないというのに波長が合うのかすでに意思疏通がなされている目の前の二人に彰吾は驚きを通り越して呆れた。
「…好きにして下さい」
「だってさ、政宗。彰吾から許可も下りたし早く行こうぜ」
何で朝からこんなに疲れなきゃならないんだろう、と彰吾はため息を吐きたくなった。
目の前にいるのは竜ではなく天の邪鬼な気がする。
ただでさえ遊士様一人でも大変なのにそれが二人も、となると…。
「彰吾、お前も来るだろ?Come early!」(早く来い)
「置いてっちまうぞー」
彰吾がそんなことを思っているとは知らない二匹の竜は、そう声をかけてさっさと行ってしまった。
その場に残された喜多は微笑ましいわねぇとその光景に笑みを溢した。
「ふふっ、お二人とも楽しそうね」
「そう、ですね…」
遊士様が楽しいなら今回は良しとしておきましょうか。
湯浴みで汗を流し、さっぱりしてから朝餉をとった遊士は今日の予定を政宗と小十郎に尋ねた。
「ah〜、そうだな。城下でも案内し…」
「政宗様。貴方様には本日中に片付けて頂きたい執務が御座います」
政宗の言葉は小十郎に寄って制された。
「睨んでも駄目です」
毎度の事なのか小十郎は表情を変えずに淡々と付け加えた。
「ってことは必然的に小十郎さんも無理か」
昨日言ってた畑、彰吾に見せてやりたかったんだけどな。
なんか彰吾の奴ちょっと疲れてるみたいだし、オレと違って慣れるまで少し時間がかかるだろう。
主にオレの安全を思ってまだ少し警戒しているんだろうけど。
まぁ、人ん家来て可笑しいかもしれないけど息をつける場所?って言うか息を抜ける場所ってのがあればいいかと思ったんだが。
彰吾は人の気も知らないで、何を為さる気か知りませんがお二人に迷惑をかけてはいけません、とか言ってくる始末。
「何だ?小十郎に用か?」
小十郎の小言を聞きながら遊士の呟きを拾った政宗が遊士に聞き返す。
「ん、まぁ…。でも無理ならいいんだ。たいしたことじゃねぇから」
そう言って口を閉じた遊士に政宗がふと口元を緩めて言葉を投げた。
「ガキが遠慮してんじゃねぇよ。言ってみろ」
「なっ!ガキって政宗だってそう変わんないだろ」
たしか政宗は若くして伊達を継いだって有名な話があったぞ。
「ほぅ、お前いくつだ?ちなみに俺は十九だ」
「…十六」
む。なんか負けた気がして悔しい。
それが顔に出ていたのか政宗はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「やっぱガキじゃねぇか。ほら、言ってみろ」
「小十郎さんから見れば政宗だってガキの癖に…」
「ah?」
睨み合いに突入するかと思われた場に二つの声が落ちる。
「政宗様、大人気ないですぞ」
「遊士様も、御自分が大人だと思われるのでしたらそれ相応の対処をなさって下さい」
簡単に挑発に乗るのは子供の証拠です、と政宗と遊士は揃って大人組二人に言われた。
「………」
「………」
揃って少しへこんだ二人は気を取り直して向き合う。
「で?俺はお前を客人として迎えてんだ。遠慮なんかせず言ってみろ」
「…昨日約束しただろ?小十郎さんの畑を見せてくれるって。時間があるなら今日見たいなぁ、って思っただけなんだ」
な、別にたいしたことじゃないだろ?
遊士はそう言って話を終わらせようとした。
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