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「ah〜、あの二人は俺の大事な客だ。これからも此処に来ると思うが喧嘩なんかすんじゃねぇぞ」
周りに集まってきた部下達にそう告げ、政宗は木刀を小十郎に渡す。
「しないッスよ!筆頭と互角にやりあえる相手とやったら逆に俺等が返り討ちにされちまうッス!」
青い顔してブンブン首を横に振った部下とうんうんと同意した他の連中に小十郎の片眉がピクリと動く。
「てめぇらそれでも伊達軍の兵士か。やりあってもみねぇ内に弱音吐くたぁいい度胸だ」
ジロリと小十郎に睨まれ兵達が固まる。
「なに脅してんだよ小十郎。ほら、お前等も早く散れ」
呆れたような政宗の言葉に、固まっていた兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げ、それぞれやる事を始めた。
政宗って意外と甘い?オレだったら即弱音吐いてんじゃねぇ、って言って稽古つけてやるんだけどな。
鍛練を始めた兵達を見ながら遊士は政宗の側へ立つ。
「小十郎、成実に稽古の量増やすよう伝えとけ」
「はっ」
あ、そうでもないか。
「政宗様も小十郎殿もお忙しい身ですから自ら稽古をつけるのは難しいんじゃないですか」
「あぁ、そっか。…て、勝手に人の心読むんじゃねぇ!」
「顔に出てますよ遊士様」
そして、引き上げるぞと政宗に声をかけられ遊士達も一緒に鍛練場を出た。
政宗の隣に遊士、その一歩後ろに下がった位置で彰吾が廊下を歩く。
途中、小十郎は用があるのでと言って別れた。
監視付きだけど、政宗と一緒にいても何も言われなかったってことは一応信用はされたのかな?
「おい、聞いてんのか遊士」
「聞いてるって。今夜の宴でオレ達を紹介してくれるんだろ?でもオレ酒はPassだから」
「ah?飲めねぇのか?」
意外だとでも言うように見てきた政宗に遊士は後ろにいる彰吾をチラリと見やった。
「そうじゃねぇ。オレは飲みたいんだけど彰吾に止められてんだ」
「そりゃまた何で?」
飲みたいなら飲ませてやればいいじゃねぇか、と言った政宗に彰吾の眉間に皺が寄る。
「遊士様はお酒に弱いくせして好きなんです。すぐに御自分の許容範囲を越えて酔ってしまわれるんです」
「ah〜、アレか。酔うと手が付けられなくなったりするのか?」
「えぇ、そんなところです」
オレにはまったく覚えがないぞ。酒を美味しく頂いて、楽しかったってことしか覚えてねぇ。
というかそうならそうと早く言ってくれれば…。
「なぁ、彰吾。それなら、許容範囲を越えて酔わなきゃ飲んでもいいだろ?」
「駄目です」
遊士の提案は考えるまでもなく却下された。
容赦ねぇな、と政宗が苦笑すれば遊士様の為ですと彰吾は言い切った。
「それじゃしょうがねぇ。諦めろ遊士」
「ちぇ」
ポンと肩を叩かれ、遊士は不満げに唇を尖らせた。
政宗も彰吾の味方かよっ。
だが、政宗の言葉にはまだ続きがあった。
「今度彰吾に内緒で飲ませてやるから、な」
「え?」
ボソッと彰吾に聞こえないよう囁かれた内容に遊士の瞳がキラリと輝く。
政宗を見れば、政宗は何事もなかったかのように顔を前に戻し、フッと口元を緩めた。
遊士はそれにコクリと一つ頷き、心の中でよっしゃぁ!と喜んだ。
それから他愛もない話をしていれば前方から喜多がやってきた。
「政宗様」
「おぅ、どうした喜多?」
「今、朝餉を用意しておりますのでその間に湯殿で汗を流してきて下さい」
小十郎から鍛練をしていた事を聞いたのかその手には替えの着物。
「OK。…一緒に入るか遊士?」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを閃かせた政宗が横にいる遊士に視線を投げる。
「ん。別にいいぜ」
それを受けて遊士は動じるでもなく首を縦に振った。
「はっ!?よくありません!何を考えているんですか遊士様!政宗様も変なこと言わないで下さい!」
代わりに慌てたのは彰吾だった。
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