09
日の出と共に鍛練を始めた遊士達だったが、気付けば外はもう明るく太陽は東の空に堂々とその姿を現していた。
そして、その時刻になれば当然鍛練場で鍛練を行う伊達の兵士達がやってくるわけで…。
「小十郎様?おはようございます」
「そちらの方は?」
ぞろぞろとやってきた兵達は鍛練場の戸口に立つ小十郎に戸惑い、挨拶をすると次に隣にいる彰吾に首を傾げた。
「おぅ、お前達か。悪いが鍛練場を使うのは少し待ってくれ」
「はぁ…、…?」
二人の視線は鍛練場から外れず、ずっと中を見つめている。
何かあるのか?と、不思議に思った兵達の耳にガンッ、とかバァン、とか凄まじい音が届いた。
次いで聞き慣れた異国まじりの声。
「Ya-ha-!いいぜぇ、もっと打ってこい。Come on!」
「んじゃ、ま、遠慮なく行くぜ!はぁっ!」
その声に兵達は驚いた。
「「「筆頭!?」」」
小十郎様はここにいるのに一体誰と仕合っているのか?兵達は顔を見合わせ、小十郎に咎められないのをいいことに中を覗いた。
中では遊士と政宗が決着の時を迎えようとしていた。
一呼吸で瞬時に間合いを詰めた遊士が下から左斜め上に木刀を跳ね上げる。
そこからの出来事はあっという間だった。
上から振り下ろされた政宗の木刀と遊士の跳ね上げた木刀が激しい音を立ててぶつかりあい、そのまま息も吐かせぬ攻防に入った。
かと、思いきやその攻防も長くは続かず遊士が政宗の一瞬の隙を付き、突きを繰り出した。
もらった!
だが、政宗はそれに対し不敵に口端を吊り上げる。
「shit、罠かっ!」
誘い込まれたっ。
突き出した木刀の軌道を横凪ぎに修正したが遅く、木刀は弾かれ、喉元に木刀の切っ先を突き付けられた。
「くっ…」
「俺の勝ちだな」
ニヤリと、切っ先を突き付けたまま笑う政宗に遊士は悔しそうに顔を歪めて口を開いた。
「shit!オレの負けだっ」
スッと喉元から木刀が離されるのと同時に場内の張り詰めていた空気が緩んだ。
途端…、
「さすが筆頭ー!格好良いッス!」
「そっちのアンタもすげぇな!」
等と、鍛練場の入り口に顔を向ければいつの間に集まったのか伊達の兵士達が歓声の声を上げて遊士達の方を見ていた。
「は…?」
その数の多さとノリの良さに遊士は一瞬デジャブを覚えた。
「遊士様、言いたい事は分かりますが風邪を召されると困りますのでとりあえず汗を拭いてからにして下さい」
「あ、…おぅ。Thank you」
遊士と同様、こちらは小十郎から手拭いを受け取り政宗は汗を拭うと、ふぅと息を吐いた。
「遊士様との手合わせはいかがでしたか?」
「久しぶりに楽しめたぜ。問題はいくつかあるがそれさえ克服すりゃぁアイツはまだまだ強くなる」
上機嫌で少し離れた場所に立つ遊士を政宗は見つめる。
すると、遊士もちょうど政宗を見てきた。
「政宗!次はぜってぇオレが勝つからな!」
手にした木刀の切っ先を政宗に向けて遊士はそう宣言した。
「ha、そう簡単にいくかよ。そんときゃまた返り討ちにしてやるぜ」
ニヤリと愉しげに笑って返してきた政宗に遊士はムッとした表情を浮かべる。
「今に見てろ!次こそその余裕なくさせてやる!」
「はぁ…。それじゃまるで悪役ですよ遊士様」
「ん?何か言ったか彰吾」
「いいえ」
ポツリと呆れたように落とされた呟きは遊士の耳には届かなかった。
「あの、筆頭!そちらの方々は誰なんスか?」
政宗と対等に会話を交わす、というかえらく喧嘩腰で話をする遊士に鍛練場の入り口にいた伊達の兵達が興味津々といった感じに聞く。
こいつら見てるとオレの部下達思い出すな〜。
オレの場合、筆頭より姉御って呼ばれることが多かったけど。
遊士は懐かしいものを見るような目で政宗の部下達を眺めた。
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