08


遊士は一度彰吾の間合いから外れると、弾んだ呼吸を整える。

次で決める!

木刀を上段、半身に構えをとり前を見据える。

対する彰吾も中段の構えをとり、空気がピンと張り詰めたものになる。

遊士はジリジリと間合いを詰め、自分の攻撃範囲に入ると一気に加速した。

「はぁっ―!!」

「くっ…」

隙を与えない斬撃で遊士は彰吾の攻撃の手を塞ぐ。

しかし…、

スピードで勝っていてもどうしても力には押し負けてしまう。

押され始めた遊士は振り下ろした木刀をスッと引くと、横に跳んで彰吾の後ろをとった。

「オレの勝ちだ」

遊士は木刀の切っ先を彰吾の首筋にあて、ニイッと笑う。

「参りました…」

彰吾が負けを認めると遊士は木刀を離した。

「よっしゃ!これで六十六勝六十八敗十引き分け」

グッと拳を握った遊士の背に何だそりゃ、と呆れた声がかかる。

「あ、政宗。小十郎さんも。もしかして二人も稽古?」

場内に入ってきた二人に遊士がそう言い、彰吾がその隣で軽く頭を下げた。

「まっ、そんなとこか」

政宗は小十郎から木刀を受け取り、遊士の前で立ち止まる。

そして、その切っ先を遊士へと向けた。

「構えろ遊士」

スッと研ぎ澄まされた、ピリピリと肌に突き刺さるような覇気を木刀と共に向けられ遊士の瞳に乗る色が好戦的なものに変わる。

どうやって相手してもらおうかと考えてたけどこれはチャンス!

これを使わねぇ手はねぇ。

「OK.Please keep company with it」(御相手願う)

「遊士様!」

ヤル気満々な遊士に彰吾が止めようと声を上げる。

「Shut up!邪魔すんな彰吾」

政宗から間合いをとり遊士は構えの体勢をとる。

「いいねぇ。ぞくぞくするぜその眼」

普段より鋭くなった眼光に見据えられ政宗は口端を吊り上げた。

「彰吾、下がってろ。巻き込まれるぞ。今の二人には何を言っても無駄だ」

小十郎にそう言われ、彰吾は鍛練場の戸口に立つ小十郎の元へ下がる。

「小十郎殿。申し訳ありません。遊士様が…」

「いや、いい。あれは政宗様が吹っ掛けた事だ」

視線の先ではガキィ、と打ち合い始めた政宗と遊士。

「お二人とも随分愉しそうですね…」

「久しぶりなんだろう。政宗様には同等に対峙できる相手がいなかったからな」

「小十郎殿は?」

「いくら頼まれても主君に本気の刃を向けることは出来ない。遊士様の相手をしているお前なら分かるだろう?」

確かに。いくら真剣を使って鍛練しようが、本気を出したことはない。

それは裏を返せば遊士も本気ではないと言うことだった。

ヒュン、と勢いよく耳の直ぐ側を掠めた木刀に遊士の肌がゾクリと粟立った。

これは中々…。いいんじゃねぇ?

興奮でふるりと身体を震わせると手にしていた木刀の柄をぎゅっと握り締めた。

「ha、どうした?今さら怖じ気づいたか?」

「まさか!その逆だっ!」

挑発してきた政宗の死角を狙って木刀を繰り出す。

しかし、それはあっさりと受け止められ、弾かれる。

やっぱ意味ねぇか。

逆に今度は政宗が遊士の右側、死角を突いてきた。

「くっ…」

遊士の右目は政宗のように眼帯こそつけていないが見えていない。

生まれ落ちた時から視力が弱く、今はぼんやりと明暗が分かる程度だった。

空を切る音と気配、木刀に乗った覇気からその位置を感じ取り、遊士は木刀を受け止めた。

ガァン、と乾いた音が響き、手が痺れる。

予想以上に一撃が重いっ!

遊士はぐっと腕に力を入れると、そのまま木刀を滑らせ攻撃に転じる。

「ha―!」

「っと、あぶねぇ」

胴狙いで振るった木刀は政宗に避けられ空を切った。

「shit!避けんじゃねぇ!」

「なら、てめぇも避けんじゃねぇぞ!」

ガガガガガッ、と乱れ打つような連撃を受け足が下がる。

「ちっ。…ンの野郎!」

遊士は足を踏ん張り、守るように受けていた木刀を振った。

攻撃は最大の防御って言うだろ。You see?



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