07


まだ陽も昇っていない時刻に遊士は目を覚ました。

「ん、眠い…」

くぁ、と欠伸をしながら布団を捲って上半身を起こす。

シンとした静かな空間の中に希薄ながら自分以外の気配を感じて遊士はほんの一瞬警戒した。

「……あ〜、そうだった。ここオレん家じゃないんだった」

が、すぐさま現状を思い出して警戒を解いた。

きっと小十郎さんが言っていた監視の為の忍だろう。

伊達には黒脛巾組(くろはばきぐみ)という忍がいる。

気配は天井裏にあり、現に手出しはしてこない。

「これが家だったら殺られてるだろうしなぁ」

遊士はもそもそと布団から脱け出すと、部屋の隅に置かれている行灯を灯し、きちんと布団を畳んで寝間着から袴へと着替えた。

「遊士様、彰吾です。起きておられますか?」

ちょうどいいタイミングで外から彰吾が声をかけてきた。

「起きてるから入って来いよ」

「失礼します」

スッと静かに障子を開け、彰吾は頭を軽く下げてから入ってくる。

「相変わらず早いな彰吾は」

どんなに朝早くともいつもしっかりと身だしなみを整えてくる彰吾の姿に遊士は苦笑した。

「俺が遊士様より起床が遅くては大問題ですよ」

「そうか?オレは気にしねぇけどな。たまにはオレが彰吾を起こしにいくのもいいかもな」

「それは遠慮願います」

本気か冗談か分からない事を嘯き、遊士は準備を終えた。

愛刀を腰に結わえ、遊士は彰吾と二人鍛練場へ向かった。

鍛練場は初めに辿り着いた場所なので覚えている。

東の空がやっと白み始めた場内にはまだ誰もいなかった。

「今日はどちらでやりますか?」

鍛練場の戸を開け、彰吾が壁に掛けられた木刀と腰に差した真剣を交互に見て聞く。

「木刀にしとく。間違ってその辺破壊しちまったら大変だしな」

持ってきた刀を壁に立て掛け、準備運動をする。

「そうですね。それが妥当でしょうか」

彰吾から木刀を一本受け取り、遊士は感触を確かめるように二三度軽く振った。

「よし。始めようぜ」

「はい」

互いに適度な距離を保ち、木刀を構える。

暫し睨み合い、先に遊士が動いた。

ガンッ、と木刀同士がぶつかり合う音が場内に響く。

彰吾は受け止めた木刀を弾き返し、後方へ跳んだ遊士を追う。

遊士はすぐさま体勢を立て直し、木刀を中段に構える。

「Come on!」

次第に打ち合いは激しいものとなっていった。

「遊士の奴、結構やるじゃねぇか」

「対峙している彰吾も中々ですな」

そして、その仕合を見ている人物が二人いた。

袴姿の政宗は胸の前で腕組みをし、鍛練場の戸に背を預けて二人を眺める。

その一歩後ろでは小十郎が中の様子を見ていた。



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