06


夕餉は政宗の部屋で、と顔合わせが終わった後政宗に約束させられた遊士は、喜多の案内のもと彰吾と共に廊下を歩いていた。

「そうだ、喜多さん。別にオレに様付けとか敬語使わなくていいよ。どうも堅苦しいのは苦手で」

遊士は苦笑しながら前を行く喜多に声をかけた。
すると喜多は右手を口元に持っていき穏やかな笑みを見せた。

「ふふふっ、そういうところ政宗様と同じね。では、お言葉に甘えて公の場以外ではそうさせてもらうわ」

「それなら、俺の事も遊士様と同様にしていただきたい」

「分かったわ。彰吾さんも小十郎と良く似て、なんだか他人の様な気がしないわね」

そんなに似てるのか?と、未来から来た主従は互いに顔を見合わせた。
そうこうしているうちに政宗の部屋へ辿り着き、喜多が膝を折って中へ声をかけた。

「政宗様、お二人をお連れしました」

「come in」(入れ)

返事はすぐ返り、喜多が膝を折ったまま障子を静かに開けた。
中には政宗と小十郎、ご飯の盛られた膳が四膳用意されていた。

「失礼します」

喜多は部屋へ入らず、呼ばれた遊士がまず先に部屋へと足を踏み入れ、それに彰吾が続いた。

Thanks、と政宗が喜多に労いの言葉を投げると喜多は軽く頭を下げ障子を閉めて下がる。

「まぁ、座れよ」

二人に視線を移した政宗がそう言い、遊士達は並べられた膳の前に腰を下ろした。
膳にはホカホカのご飯に味噌汁、焼き魚、野菜の煮物にホウレン草の胡麻和え。

「凄い美味しそう…」

綺麗に盛り付けされた料理に遊士は目を奪われる。
その様子に政宗は機嫌良く笑い、食おうぜと箸を取った。
遊士も政宗にならいご飯に箸をつける。

「ん。美味しい!特にこの野菜の煮物美味い」

「その野菜、小十郎が作ったんだぜ」

まるで自分の事のように自慢した政宗に遊士がへぇ、と感心した声を出す。

「小十郎さんが?ん〜、遺伝ってわけでもないよな…」

「What?」

「彰吾も野菜作ってんだぜ」

な、と遊士に話を振られた彰吾が頷く。

「はい。と、言ってもそんな本格的なものじゃないんですけどね」

「ha、そりゃぁいい。今度小十郎に畑見してもらえ。コイツの畑は立派だぜ」

「政宗様…」

誉められて悪い気はしないが何だか落ち着かず、小十郎は主君の名を呼ぶ。
政宗はそれに気付いていながら本当の事なんだからいいじゃねぇか、と上機嫌で笑った。

「そうなんですか?小十郎殿のご迷惑でなければ是非見てみたいですね」

「オレも見てみたいな」

「ほら、二人とも見てぇってよ」

完全に興味を引かれている彰吾に、便乗する遊士。
政宗までも乗り気で、小十郎はやれやれと苦笑を浮かべた。

「分かりました。ただ、面白いものなど何もありませんよ」

小十郎に畑を見せてもらう約束を取り付け、遊士達は何事もなく夕餉を終えた。

「そうだ、政宗。一つお願いがあるんだけど」

「何だ?」

「たまにでいいからさ鍛練場使わせてもらえねぇか?」

いくら監視付きで城中を歩き回ってもいいと言われても、武器を手にとり振るう場所には流石に城主の許可がいるだろうと遊士は政宗に許可を求めた。

「構わねぇぜ」

すると政宗は遊士の心配をよそにあっさり許可を出した。
それにより逆に遊士が困惑した表情を浮かべる。

「そんなあっさり頷いていいのかよ?オレが刀を向けるとか思わないのか?」

「思わねぇな。それにそん時きゃそん時に考える」

ま、はなからあぶねぇ奴だと思ってたらお前の刀は取り上げてる。

「それもそうか。でもま、オレが政宗に刀を向ける事は絶対ねぇから」

政宗が消えたらオレが存在できないし、と遊士はからからと笑う。

「って事で、さっそくなんだけど明日の朝使ってもいいか?」

「いいぜ。ただ、他の奴等も使うかもしんねぇから気を付けろよ。何か聞かれたら俺の客だと言っておけ」

政宗の返答に遊士はよし、と頷き彰吾に日の出と共に今日の決着をつけるぞ、と言った。
明日の話を嬉々として始めた遊士の横顔を政宗はニヤリと見つめ、側にいる小十郎に話しかける。

「聞いてたな、小十郎?」

「はっ。まさかとは思いますが政宗様…」

「くくっ。遊士と彰吾の腕がどれ程のものか、明日が楽しみだぜ」

自分の子孫と名乗るもの達の腕前が気になるのは小十郎も同じなのか政宗を止めることはしなかった。



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