04


その後、小十郎が部屋に迎えに来て別の部屋へ連れていかれた。

そして現在。
一段高くなっている上座と呼ばれる場所に政宗。
そこから見て左側、上座に近い場所から順に小十郎と見知らぬ男性二人、女性一人。
遊士と彰吾はそんな部屋の中央、上座に座る政宗と対面するように座っていた。

「コイツ等は俺の腹心で小十郎の隣から順に鬼庭 綱元、伊達 成実、女中頭の喜多だ。コイツ等には全て話すがいいな?」

政宗の意図を察した遊士はコクリと一つ首を縦に振った。

そのやり取りに何で集められたのかよく分からないという顔をした、どこか政宗に似た面立ちの成実と呼ばれた青年が痺れを切らして口を開いた。

「おい、梵。何なんだよ?勿体振ってないで教えろよ」

「成実。貴方は殿の言葉も待てないのですか。まったく、嘆かわしい」

すると成実の隣に座る、綱元が温和そうな表情とは裏腹に毒舌を吐いた。

「なっ、嘆かわしいってなんだよ!俺はただ…」

「Shut up!うるせぇぞ成実」

「何で俺だけ。綱だって」

ジロリと政宗に睨まれて成実はその口を閉じた。

アイツが政宗の従兄弟の成実か。んで、小十郎さんとは義兄弟の綱元さんに、実姉の喜多さん。

本来ならば目にすることも叶わない人物達を前に遊士は興味と好奇心を盛大に擽られたが、場が場なだけにそれは憚られた。
それに加え、隣から大人しくしていて下さいよ、と言わんばかりにチラリと時折向けられる彰吾の視線も痛かった。
だから遊士はすました表情のまま彼等を目だけで確認するに留めた。

再び静寂を取り戻した室内で政宗がパチリと手にしていた扇子を閉じ、沈黙を破った。

「こいつ等は未来から来た客人だ」

「はぁ?」

政宗の言葉に一番に反応を示したのはやはりというか成実だった。
綱元は表情を変えず、喜多は少しばかり驚いたような顔を見せた。

「ちょっと梵。大丈夫かよ?小十郎も何か言ってやれよ」

黙したままの小十郎に成実はまさか、と目を見開く。

「小十郎も信じてるのか!?」

「政宗様の仰った事は本当の事だ」

これには綱元も僅かに目を見開いて表情を動かした。

「では、彼等は本当に未来から…?」

スッと綱元の視線が政宗から遊士達に注がれる。
政宗はその問いにYes!と大きく頷き、口元に弧を描いた。

「ソイツ等に名を聞いてみな。おもしれぇ事が分かるぜ」

ニィッといつになく愉しげな笑みを浮かべる政宗の側で小十郎は苦笑を浮かべた。

「では、そのように。貴殿方の名を教えて貰えますかな?」

政宗に言われた通り綱元は二人に名を聞いた。

「俺は片倉 彰吾と申します」

「オレは伊達 遊士」

「………」

先程と違った沈黙がその場に落ち、ようやく思考が追い付いた成実が驚きに声を上げた。

「え、えぇ〜!?伊達に片倉って…、未来から来たことが本当ならこの二人…」

「It is such a thing.
These fellows are descendants such as me.な、おもしれぇだろ?」(そう言うことだ。こいつ等は俺等の子孫だ)

成実の反応に政宗は満足げに笑った。

証拠となる刀を見せ、政宗達の時と同じ様な説明を遊士は繰り返した。










話し終えると成実はすげぇな、と表情を嬉々としたものに変え、綱元は無表情のまま一人考え込むように腕を組んだ。
始めの内は驚いた顔をしていた喜多も穏やかな笑顔を浮かべたまましっかりと話を最後まで聞いていた。

「ってことはさ、遊士達は誰が天下をとったか知ってるんだよな?」

成実の遠慮ない発言に空気が一瞬にしてピリピリと張り詰めたものに変わった。

「成実、余計な事聞くんじゃねぇ」

「だってさ気になるじゃん」

よく見れば軽口を叩く成実の瞳には真剣さが宿っていた。
睨み合う政宗と成実に、重くなった空気。
それを打ち破るように遊士が口を開いた。

「それについては何もお答えできません」

全ての視線が自分に集まったのを感じ、遊士はですが、と続けた。

「天下云々の前にオレが、オレ達がこうして存在しているということが何かしらの答えにはなりませんか?」

いずまいを正し、確りと政宗の隻眼を捉えて遊士は未来の伊達家当主の座を継いだ者として、一族に関わる問いにそう返した。

「…ha、俺はな始めっから誰が天下をとったかなんて野暮なこと聞く気さらさらなかったぜ」

だからこの馬鹿の言った事は気にすんな、と政宗は気分を害した風でもなく言い、口端を吊り上げた。

「お前等の知る過去がどうあれ、天下を取るのはこの俺。独眼竜よ。なぁ、小十郎?」

「はっ。その通りで御座います」




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