01
目の前の人物が嘘を吐いているようには見えない。
遊士は回転の鈍くなった頭で現状を理解しようと努めた。
「ってことはなにか?オレ達は過去に来ちまったって言うのか?」
「まさか」
遊士の台詞を彰吾が有り得ないとすぐさま否定する。
「あ〜、待て待て。ちなみに今ってどんな時代なんだ?」
混乱しかけた思考を押し留め、最終確認をするように聞いた遊士に政宗があっさりと答えた。
「戦国乱世だ」
「……………」
きっぱりとそう断言された事で遊士は何かが吹っ切れたような気がした。
「ha〜、そうかよ。戦国上等!これが現実だって認めてやるぜ」
順能力の高い遊士はこうして身に降りかかった現象を現実として認めた。
「たしかに、此処は俺達のいた場所とは違うような気はします。ですが、そう簡単に決めつけるのはどうかと」
順能力がどうとかより、彰吾はその中に多大な好奇心があるのを見いだして遊士を諌めるように言った。
「頭堅いなぁ彰吾は。こういう時は楽しまなきゃ損するぜ」
「遊士様!」
「分かった分かった。分かったから説教は勘弁してくれ」
いつものやりとりを繰り広げていればah〜、と声をかけられた。
そちらを見れば二人とも呆れたような顔をして遊士達を見ていた。
「話が終わったなら、次はこっちの質問に答えてもらおうか」
「はい。どうぞ」
姿勢を正して先を促せば、いきなり礼儀正しくなった遊士に政宗は眉を寄せた。
「どういうつもりだ?」
そして小十郎が警戒するように言う。
「どういうも何もオレだって敬意を払うべき人間ぐらい分かる」
なんたって御先祖様だしな、と心の中で遊士は付け加えた。
「ほぉ、人を見る目は確りしてるんだな」
遊士の返事に警戒心は消さないながらも小十郎は感心したように呟いた。
「それでアンタ等はどっから来た?」
政宗の質問に遊士は疑問系で答えた。
「家の道場…?で、気付いたらここにいた」
「…ふざけてんのか?」
その答えにはさすがの政宗もこめかみをピクリと反応させて遊士を睨み付けた。
「ふざけてません。大体オレがアンタに嘘を吐く理由がない。それに、吐くならもっとマシな事を言ってる」
「嘘だと思うのならそちらの、…片倉様に聞いてみて下さい。俺達はきっといきなりこの道場に現れた。違いますか?」
遊士を援護するように彰吾が二人に向けてそう言った。
政宗は小十郎に視線だけで真偽を問う。
「…たしかに彼等はいきなり現れたとしかこの小十郎にも言いようがありませぬ」
部下に鍛練をつけ終え、解散させた後には鍛練場には自分以外誰もいなかった。
そして、小十郎が鍛練場を後にしようとした所、突然背後からピリピリと肌を刺すような空気を感じ、振り返った。
するとそこにはいつの間に侵入したのか刀を手にした人間がいて、小十郎は侵入者とみなし、刀を向けた。
政宗は小十郎の説明にそうか、と一言頷き返し次の質問をする。
「さっき名乗った名、ありゃどういう意味だ?伊達に遊士なんて名のつく人間はいねぇ」
「片倉家にも彰吾などという名の人間はおりません」
どこから来たのかは一旦横へ置いておいて政宗は問う。
「その問いも、さっきのオレ達がどこから来たのかという質問もこれを見て貰えば分かるかと」
遊士はそう言って腰に差していた二振りの刀を鞘ごと腰から外すと政宗に差し出した。
「ah?これが何だって…、っ!?」
刀を受け取った政宗はハッとしたように一本一本検分するように見ていく。
「政宗様?」
その様子に小十郎は何が何だか分からないという顔をして主の名を呼んだ。
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