02
廊下に膝を付き、お盆を下ろした小十郎に遊士は白桜を膝から下ろして言う。
「小十郎さんも一緒に食べない?せっかく切ったんだし」
遊士は自身の右隣をペシペシと叩いて小十郎を促した。
「では失礼して。…政宗様と彰吾は後から来るそうです」
「分かった」
西瓜の数からして後から政宗と彰吾が来るのだろう事は予想できた。
遊士はお盆の上に置かれた布で手を拭き、隣に腰かけた小十郎に切ったばかりなのだろう、冷たい西瓜をひと切れ手渡す。
「はい」
「有り難う御座います」
「みゃぁ!」
「お前はダメだぞ白桜」
小十郎に渡した西瓜をジッと見て鳴く白桜に遊士は釘を刺す。
「遊士様、白桜の分もきちんと盆にありますのでそれを」
お盆の上を良く見れば、西瓜の影になって気付かなかったが隠れるようにして小さく切られた西瓜が乗っていた。
「…わざわざ用意してくれたんだ。Thanks、小十郎さん。良かったな白桜、ほら」
「にゃぁん!」
小さな西瓜を手に取り、足元の石の上に置けば白桜は西瓜を追って濡れ縁を下りる。
遊士も自分の分の西瓜を手に取り、頂きますと口をつけた。
しゃくりと瑞々しい音がして、西瓜の甘さが口の中に広がる。
「ん、美味しい!」
しゃくり、しゃくり、と西瓜の美味しさを堪能する遊士の隣で小十郎も頂きますと西瓜を食べ始めた。
突き抜けるような青い空に、降り注ぐ太陽。庇(ひさし)の落とす影で西瓜を食べていた遊士はそよりと吹いてきた風に瞳を細めた。
何処かでミンミンと鳴く蝉の声に混じって微かに太鼓の音が聞こえる。
「もうすぐ夏祭りか…」
皮だけになった西瓜をお盆の端に乗せ、遊士は小十郎から濡れた布を受けとる。
「当日は露店も数多く並びますし、遊士様も行ってみてはどうです?」
その布で手を拭き、遊士はそうだなぁと小十郎を見返した。
「その日、政宗と小十郎さんって暇?」
「…?今の所、特に予定はありませぬが」
「じゃぁ、その日は空けといてくれよ。夏祭り、彰吾も入れて四人で行こうぜ」
すでに遊士の中では決定したことなのか、遊士はにこにこと笑う。
期待するようなその眼差しに、小十郎の表情がふと優しげなものになる。
たまには良いかも知れねぇな。
気付けば小十郎は口を開いていた。
「それは…楽しみが一つ出来ましたな」
是の返事を貰った遊士はおぅ、と嬉しげに笑みを溢す。
「みゃぁ〜」
「白桜、お前には土産を買ってきてやるからな。大人しく待ってるんだぞ」
本当に楽しみだと、あどけない笑顔を見せて白桜に話しかける遊士を小十郎は温かな眼差しで見守っていた。
たまには…、な。
end.
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