03
「ん……」
寝苦しさを覚えて遊士は目を覚ます。
瞼を震わせ、ゆっくりと目を開けた。
「……?」
しかし、目に飛び込んできたものは見慣れた天井ではなく、視界一杯の肌色。
遊士はぼぅっとしながら身じろいだ。
その時、肌色以外に落ち着いた色合いの着物を目にし、遊士の眠気は一気に吹き飛んだ。
「は…!?」
「ah-…、起きたか?」
そこへ寝起き特有の掠れた低い声が降ってきて、遊士は恐る恐る顔を上げた。
「―っえ!?ま、ま、政宗ぇ!?」
ちょうど瞳を細めて見下ろす政宗と視線が絡み、遊士は瞬く間に顔を赤く染めると狼狽える。
何で?どうして?
「〜〜〜っ」
言葉も出ないほど混乱している遊士に政宗がどう説明しようかと口を閉じた次の瞬間、遊士は耐えきれなかったのか掌で顔を覆い、助けを求めた。
「っ、彰吾ーー!」
「ばっ、今何時だと…」
やっと陽が昇り始めた頃。しかし、政宗の心配を余所にバタバタと荒い足音が近付いて来る。
「失礼致します!」
そして返事をまたずに障子が勢いよく開かれ、彰吾が飛び込んできた。
「遊士様!ご無事で!…元に戻られたのですね」
その後直ぐ小十郎も駆け付け、彰吾と同じまずは安堵の息を吐いた。
「な、何だよ元にって。っ、それより何でオレはここにいるんだよ!」
一人意味の分からない遊士は情けない声を出す。
「覚えておられないので?」
「…何を?」
小十郎に聞かれてそう答えた遊士。
遊士は子供になっていた事など覚えていなかった。
それが遊士を更なる混乱に突き落とす。
「…何か仕出かしたのかオレ?」
したとも、してないとも言い難い返答に三人はつい黙ってしまう。
その反応に遊士は顔をしかめた。
「仕出かしたんだな?」
「…あぁ。けど、気にするな。普段見れねぇお前が見れたし、そう悪い事でもなかった。なぁ、小十郎?」
「どちらかといえば新鮮でしたな。今の遊士様は確りしておられますから、あの様に無防備に甘えられるのもたまには良いかと」
普段見れねぇオレ?それに甘えるって…?
「遊士様。今回は遊士様に免じて小言は控えますが、呉々も見もしない食べ物を口にしませんように」
「オレに免じて?さっぱり意味が分からねぇんだけど…」
それに何より、オレが何か仕出かした(らしい)のに彰吾がそこまで怒ってないのが非常に恐ろしく不気味だ。
険しい顔で首を傾げる遊士の頭を、政宗はわしゃわしゃとかき混ぜ促す。
「いつまでもこうしてても仕方ねぇ。遊士、お前は一旦部屋に戻って着替えてこい。着替えたら一緒に朝餉だ」
「お、おぅ」
さっと遊士は立ち上がり、政宗から逃げるように部屋を飛び出して行った。
その後ろ姿に政宗は苦笑を浮かべ、小十郎は微笑ましいと笑みを溢す。
「では、俺は朝餉の仕度を」
彰吾も穏やかな笑みを口元に部屋を出て行った。
「〜〜っ、オレは一体何を仕出かしたんだ!?思い出せねぇけど何か恥ずかしい事した気がするっ」
一人、部屋に戻った遊士は畳にしゃがみこみ頭を抱える。
とにかく暫く政宗達と視線を合わせられそうになかった。
end.
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