迎えに見える、その姿(トサカ丸×黒羽丸)
いつもと変わらぬ日常
なにげない行動
ふとした瞬間振れる心―…
□迎えに見える、その姿□
「今夜も異常無しか」
ばさばさと背にある羽を動かし、黒羽丸はパトロールを終えて奴良組の屋敷がある方へと方向転換する。
右手に持っていた錫杖をしゃらりと鳴らし、首から提げていた笛を懐にしまった。
「…ひと雨来そうだな」
月明かりのない空を見上げ、肌に感じる風が冷たさを増してきたのに気付き、黒羽丸は飛ぶ速度を上げる。
「何とか間に合うか?」
急ぎながらもつい習慣で黒羽丸は流れる景色に気を配ってしまう。
「こればっかりはしょうがないか…」
そんな自分に苦笑を溢し、やがて、視界に屋敷が見えてきた辺りでぽつりと降り出した雨が黒羽丸の頬を濡らした。
「もう少し待ってくれれば…」
そんな希望とは裏腹にぽつぽつと落ちる雨粒は量を増していく。
どんよりとした厚い雲が空を覆い、闇が濃くなる。
「ん…?」
しかし、その暗さを切り裂く様に鮮やかな髪色が、周囲に気を配っていた黒羽丸の目に飛び込んで来た。
「黒羽!」
「トサカ?何やってるんだお前、濡れるぞ」
ばさりと漆黒の翼を羽ばたかせ、雨を払うようにしてトサカ丸は黒羽丸の元へと近付いてきた。
良く見るとその手には一本の和傘。
「迎えに来た。だから下に降りようぜ」
にっと笑って伸びてきた手に右手を掬われ、引っ張られる。
「おい、トサカ!」
「良いから、良いから」
人通りも無い、アスファルトで舗装された道路に降り立ったトサカ丸は羽を畳み、黒羽丸の手を握ったまま藍色の和傘を開いた。
「黒羽も羽しまえよ」
言われて黒羽丸も羽を畳む。
「まさか歩いて帰るつもりか?」
「良いだろたまには」
何だか上機嫌で歩き始めたトサカ丸の横顔をちらりと見やり、黒羽丸は続けて聞く。
「何で傘が一本しかないんだ」
トサカ丸の広げた藍色の和傘は普通の傘に比べて多少は大きいかもしれない。けれど、これでは…。
ちらと黒羽丸の視線がトサカ丸の肩に向けられる。
「ん?あぁ、大丈夫、大丈夫。こうすれば」
その視線に気付いたトサカ丸は嬉しそうに笑って、黒羽丸と繋いでいた手を離すと、その手を黒羽丸の肩に回した。
二人の間に合った距離を縮める様に抱き寄せられ、薄く黒羽丸の頬が色付く。
「ちょっ、待てトサカ!」
「誰も見てねぇし、こうすれば傘で隠れるだろ?」
周囲からの視線を傘で遮り、すぃと顔を近付けてきたトサカ丸が悪戯を思い付いた顔でにやりと笑う。
(う、わっ―…っ)
瞳を細め、口角を吊り上げて笑ったその姿に不覚にも瞳を奪われ、黒羽丸の鼓動がとくんっと跳ねた。
自分の意思とは関係なく顔に熱が集まりだし、じわじわと体温が上がる。
(これが無意識なのが悪い!)
黙したのを同意ととったのかトサカ丸は顔を離し、黒羽丸の肩を抱いたまま歩調を合わせてゆっくりと歩く。
今にも鼻唄でも歌い出しそうなトサカ丸に黒羽丸は恥ずかしさ半分嬉しさ半分心に抱いて、傘の下から本格的に降り出した雨粒を眺めた。
□end□
御題配布元
≫immorality
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