その手が髪を撫でる時(トサカ丸×黒羽丸)
自分より少し大きな掌
その手は優しいぬくもりと
溢れんばかりの想いに満ちていた―…
□その手が髪を撫でる時□
さわさわと頬を撫でる風が暖かさを増してきた時分、降り注ぐ陽の光の下で黒羽丸は瞳を細めた。
背に広げていた漆黒の翼を折り畳み、木陰に足を踏み入れる。
「黒羽?」
木立の連立する間に降り立った黒羽丸は、後を追い、同じ様に着地したトサカ丸を振り返った。
「少し休憩だ」
歩み寄った木の根元に腰を下ろし、黒羽丸は幹に背を預ける。幾分か和らいだ陽射しに黒羽丸はふぅと、内に籠る熱を吐き出した。
「今日は暑いな」
そう呟いて、陽射しを見上げる為に持ち上げた視線がトサカ丸を写して止まる。
「………」
木々の隙間から溢れ落ちる光が鮮やかな黄色と緑の髪を照らし、不意に重なった視線の先でトサカ丸がふと優しく笑った。
「トサカ…」
きゅぅと収縮した心臓が甘い疼きもたらし頬が熱を帯びていく。
さくさくと草を踏みしめ近付いてきたトサカ丸とは反対に黒羽丸は俯いた。
「ん?どうした?」
そんな黒羽丸の様子に首を傾げながらもトサカ丸は黒羽丸の隣に腰を下ろす。
「…なんでもない」
「ならいいけど。少し顔が赤いみたいだから陽射しにでもやられたか?」
「…かもしれん」
黒羽丸が顔を上げれずにいれば、労る様にポンと頭に手が乗せられる。
「兄貴は真面目だからなー。ちょっと頑張りすぎなんじゃねぇの?」
自分より少し大きくて厚い手がくしゃりと髪を撫でてきて、それに合わせるようにゆっくりゆっくり黒羽丸の心が落ち着いていく。
たったそれだけのことで解れる心と緩む表情。
(きっと言葉一つ、行動一つで俺を動かせるのはトサカだけなんだろうな)
また、その逆も然り。
そう思うと黒羽丸はなんだか擽ったい気持ちにさせられた。
(そして何より…悪くない)
髪を撫でる手の感触に瞳を細め、黒羽丸は隣に座るトサカ丸の肩に寄りかかる。
「…少しだけ休む」
とんといきなり肩にかけられた重みとどこか早口で告げられた台詞にトサカ丸は目を丸くし、次いで黒羽丸の耳が赤く染まっているの気付いて表情を和らげる。
さらりと艶めく黒髪をひと撫でし、トサカ丸は誰も聞いたことのない甘く低い声で黒羽丸を眠りへと促した。
「おやすみ黒羽…」
ぴくりと揺れた肩に赤みの増した頬。
…眠れたかどうかは本人のみぞ知る。
□end□
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