触れる愛しさ(夜昼)


とくとくと脈打つ鼓動
その姿に、声に、ぬくもりに
愛しさが溢れてやまない―…



□触れる愛しさ□



二人きりの世界に沈み、桜の幹に背を預けた夜の広い胸の中に背中からすっぽりと抱き締められる。
身体を包み込むぬくもりにほぅと吐息を溢し、昼は表情を緩めた。

お腹の辺りに回された腕とは逆の手が栗色の髪をひと房掬い上げ、ふわりと唇が落とされる。
髪にかかる吐息に気付いた昼は薄く頬を染め、頭上にあるだろう夜の顔をちらりと見上げた。

その先で、穏やかで深い愛情を湛えた切れ長の金の瞳と視線がぶつかる。

《ん?》

その視線の甘さに昼は小さく息を詰まらせ、耳まで赤く染めて慌てて顔を前に戻した。

《どうした?》

耳元で優しく囁く夜の声に昼は顔を上げられぬまま、何でもないと首を横に振る。

《そうか?》

「うん…」

夜は小首を傾げつつも指先から栗色の髪を落とすと、今度はその手で昼の右手を包み込んだ。一本一本指を絡めてはその感触を楽しむ。

「………」

自分より一回り大きくて、いくらか堅い、骨張った夜の手に包まれて昼の鼓動がとくりと跳ねる。

手の甲にぴったりくっついた夜の掌に、絡まる指先。重ねられた指をきゅっと軽く握り返せば耳朶を擽る吐息。

《昼。…こっち向いてみな》

近すぎる声にどきどきと鼓動をはやらせながら、昼は夜に預けていた身を起こす。夜の足の間で膝立ちになり、くるりと向きを変えれば昼は夜を見下ろす形になった。

いつもは見上げるばかりの、自分とは違う凛々しい端整な顔。金の瞳が真っ直ぐに自分を見つめてくる。

持ち上げられた夜の右手が優しく昼の頬に触れ、どきどきしながら昼はその手にそっと自分の左手を重ねた。

そして、自然な動作で引き寄せられ近付く距離。
昼は恥ずかし気に瞼を伏せ、夜が引き寄せるより一瞬早く自分から夜に触れた。

「ん…っ…」

《………!》

ちょんと触れるだけ触れて離れていこうとする昼のぬくもりを、夜は昼の背と腰に腕を回して引き留める。
思わぬ昼からの接触に夜は驚き、同時に込み上げてきた嬉しさにふと表情を緩めた。

《昼…》

目元を赤く染めてゆっくりと開いた昼の瞳と視線を絡め、夜は静かに口を開く。

《…もう一回》

「え?」

《もう一回してくれよ》

下から見上げられ、夜から口付けを求められる。
その眼差しは酷く熱く、…真剣で、甘い。
心の奥深い場所がジワリと熱くなり、ふるりと身体が震える。
ほんの少しの恥ずかしさを残して昼は囁くように返した。

「っ…じゃぁ…目、閉じて」

言われた通りにすっと瞼を下ろす夜に、おさまらぬ鼓動を持て余したまま昼は再び自分から夜に触れる。

「んっ…」

今度は逃がすまいと後頭部に手を差し込まれ、口付けは徐々に深まっていった。

《……昼》

頬を上気させ、力の抜けた体でくたりと夜の胸に凭れ掛かかれば前髪を掻き上げられ、額にも唇を落とされる。

「…ん…夜」

腕の中に閉じ込めた昼を夜は愛しげに見つめ、昼も頬を染めながら夜を見つめ返す。

ここは二人だけの世界。

「好きだよ、夜」

《俺は愛してる》

ひらひら舞う花弁が、二人の世界を桃色に染めて行く――。



end



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