見つめる先(子リク+総大将)
雲の切れ間からのぞく月明かり
淡い光に照らされ翻る羽織り
凛としたその背中を見つめる―…
□見つめる先□
「おじーちゃん!」
入室の断りもなく、子供らしく元気な声と共に障子が開く。
「おぅ、何じゃまた来たのかいリクオ」
けれども咎める声は無く、しょうがないのぅと言葉とは裏腹に嬉しそうな声音が言い、小さなその体は室内へと招かれた。
火を入れる前の煙管を懐にしまい、自室にいたぬらりひょんは胡座をかいた膝をポンポンと軽く二度叩く。
「ほら、こっち来い」
「うん!」
呼ばれたリクオはにこにこと嬉しそうにぬらりひょんの元に駆け寄ると、示された足の上にちょこんと座った。
「えへへ…」
着物の開いた胸元にふわふわの栗色の髪の毛が触れ、ぬらりひょんは擽ったそうにふと表情を緩める。
「さて、今日は何の話をするかの」
「ぼく、おじーちゃんのかつやくするおはなしがいい!」
「そうかそうか、そいじゃぁ…遠野に行った時の話でもするかの」
「とーの?」
うむ、ここからずっと北にある寒い地のことじゃ。…ぬらりひょんはリクオが乞うままに、鯉伴のあまり話してくれるなという釘を遠い彼方へ放り捨てて、面白おかしく実際にあった話を語り始めた。
◇◆◇
「…そいで遠野から強い奴をごっそり頂いて、ととっ、間違えた。譲って貰ったのじゃ。どうじゃ、凄いじゃろ?」
「ふぁ〜、おじーちゃんすごい!かっこいい!」
一通り話を聞き終えたリクオはぬらりひょんの足の上で体を後ろに捻り、瞳をきらきらと輝かせてぬらりひょんを見上げる。
「ぼくもおじーちゃんみたいになれる?」
「ん?リクオはワシみたいになりたいのか?」
「うん!おじーちゃんやお父さんみたいにかっこよくなりたい!」
全ての意味を分かっているのかどうかは別として、幼いながらしっかりと祖父と父親の背を追っているリクオをぬらりひょんは穏やかな眼差しで見つめた。
「そうじゃなぁ…、リクオならなれるかもしれんなぁ」
「ほんと!?」
「ただし、それにはリクオの頑張りが必要じゃ。出来るかの?」
「できるっ!ぼくがんばる!」
何をとも聞かず、意気込むリクオの瞳は真っ直ぐで、ぬらりひょんは眩しそうに瞳を細める。
「そうか、…どんな組になるのか今から楽しみじゃな」
くしゃくしゃっと、見上げるリクオの髪を右手で掻き混ぜ、ぬらりひょんは柔らかく笑う。
その温かく大きな掌にリクオもまた嬉しそうに表情を綻ばせた。
□end□
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