鯉のぼり(昼+鯉若)


見上げれば爽やかな青い空
色鮮やかな5色の吹き流しが流れ
鯉のぼりがゆうゆうと空を泳ぐ―…



□鯉のぼり□



人々が集まる河原の土手に、昨今では珍しい和服姿の親子が手を繋いで歩いていた。

「あんま上ばっか見てるとあぶねぇぞ」

繋いだ右手を軽く引いて注意を促す鯉伴にリクオはきらきらと輝かせた大きな瞳を向ける。

「こいのぼり、すごいね!」

ゆるく吹く風を受けて、河原の端と端に目一杯に付けられた幾つも鯉のぼりが悠々と、流れる川の上を泳ぐ。また河川敷へと下りれば鯉のぼりに合わせて出された出店が賑わいを見せ、人々を楽しませていた。

「あっ、わたあめだ!」

そう言ってはしゃぐリクオについついほだされて鯉伴の表情が緩む。
すると、リクオを間に置いて隣からくすくすと笑う声が聞こえた。

ちらりとそちらを見れば案の定若菜が笑っている。

「今日は天気も良くて、良かったですね」

「あぁ、そうだな。このところ雨だったからなぁ」

夕べ、若菜と一緒にせっせと照る照る坊主を作っていたリクオを思い返し、鯉伴は瞳を細める。
二人の間ではきょろきょろと出店を見たり、鯉のぼりを見上げたりと忙しいリクオに、若菜と鯉伴は顔を見合わせ笑みを溢した。

「お母さん!」

鯉伴とは反対側、リクオと繋いでいた左手をくんっと下から引かれ、若菜は決まったの?と優しく聞き返す。

「うん!いちごのかきごおり!」

「そう、じゃぁリクオはお父さんとここで…」

「若菜。俺が買ってくるからお前はここでリクオと待ってろ」

若菜が言うのを遮り、鯉伴がリクオと繋いでいた手を離す。その際然り気無く視線を周りへと流して、離れてついてきているであろう自分の側近達に目配せをした。

「誰かに声掛けられてもついてくんじゃねぇぞ」

「もう、私を幾つだと思ってるんですか?」

はぁい!と良い子の返事を返したリクオと、冗談だと受けとってちょっぴり頬を膨らませた若菜の頭をくしゃりとひと撫でして鯉伴は側から離れる。

そんな親子の様子を、近くで見ていたカップルは憧れの眼差しで見つめ、孫を連れた年配の老夫婦は微笑ましいと穏やかな目で見ていた。

「お母さん」

「なぁに?」

鯉伴を待つ間、若菜はリクオに指先を引かれ、同じ視線になる様にリクオの横にしゃがむ。
すっと持ち上げられた小さな指先が空を泳ぐ鯉のぼりを指し、リクオが笑って言った。

「あれがお父さんで、赤いのがお母さん?」

「そうねぇ。その隣にいるのがきっと子供ね」

「んと、じゃぁ、あっちがおじいちゃんで、向こうがカラスてんぐ…!それと、首無にけじょーろーと…」

沢山泳ぐ鯉のぼりを奴良組の面々に当てはめてリクオは楽しそうに続ける。

「ふふっ、ちゃんとみんな居るわね。良かったわねぇリクオ」

「うん!」

頬を上気させてにこにこと笑うリクオと若菜の元に影が落ちる。

「…っと、随分楽しそうだな。何の話だ?」

リクオご所望のイチゴシロップのかかったかき氷を手に、鯉伴が側に戻ってきた。

「お父さん!」

「ほら、リクオ。冷たいからな。落とすなよ」

「鯉伴さん」

腰を屈めてリクオにかき氷を手渡した鯉伴の横で、しゃがんでいた若菜が立ち上がる。

「で、何の話だ?」

「鯉のぼりの話ですよ」

かき氷に気をとられているリクオを間に挟み、若菜はリクオが鯉のぼりを指して言った言葉を繰り返す。
そして話を聞き終えた鯉伴は、しゃくしゃくとかき氷をスプーンで崩しているリクオを見て苦笑を溢した。

「…そりゃまた大家族になったもんだ」

「良いじゃないですか。楽しくて」

同じ様にリクオに視線を落とした若菜はふんわりと微笑み、空を見上げる。


そこには、風を受けて気持ち良さそうに泳ぐ沢山の鯉のぼりが青空を彩っていた。



end



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