X'mas-後編(夜昼)
シンシンと静かにつもるはキミへの想い
溶けることなくいつまでも―…
□X'mas-後編□
12月25日、土曜日。
昨夜から一段と冷え込みが厳しくなった今朝、池には氷が張っていた。
「河童、大丈夫?」
「大丈夫ですよー。池の中まで凍ってるワケじゃないんで」
学校は冬休みに入り、リクオは縁側に腰掛けのんびりと過ごしていた。
「若、あまり縁側に長居しますと風邪引きますよ」
そこへ通り掛かった首無が、声をかけていく。両手に箱を抱えて、忙しそうに廊下の角へと消えた。
その先からはがやがやと賑やかな声が聞こえる。
「河童は行かなくていいの?」
「んー、オイラは後から行きます」
「そう?じゃぁ、僕はちょっとだけ顔出して来ようかな」
昼間の内に少し参加しておけば、夜に顔を出さなくても済むだろう。
リクオはそう考え縁側から立ち上がると、宴会をしている部屋へと足を向けた。
「あっ、リクオ様!どうぞこちらにお座り下さい」
「ありがとう、つらら」
室内に入ってきたリクオに気付いたつららに案内され、黒田坊達の側に座る。
「おぉ、若。若も一緒に飲みましょうぞ」
「いや、僕は遠慮しとくよ。青と飲みなよ」
酒を差し出してくる黒田坊に首を振り、断る。
「リクオ様、食べたいものがあったら言って下さい!私がとりますから!」
何故だか張り切るつららにリクオは苦笑し、幾つか料理を小皿にとってもらった。
クリスマスという、騒ぐにはもってこいの行事に乗っかり、彼らはいつも以上に盛り上がっている。
巻き込まれるのはごめんだが、そんな彼らを見ているのは好きだった。
◇◆◇
奴良組の宴は夜まで続く。どちらかと言えば昼間よりも陽が沈んでからの方が本番の様なもので。リクオは巻き込まれる前にその部屋を後にする。
スーッと襖を開けて廊下へ出れば、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
「ぁ…、寒いと思ったら…」
自室に戻る途中、何気なく庭の方へと視線を向ければ、いつ降りだしたのか、ちらちらと雪が降っていた。
「寒いな…、早く戻ろ」
早く戻って、夜に会いに。
《…早く来い、昼》
そう思っていたら、己の内側から自分を求める声が聞こえてきた。
「夜?」
《寒いんだろ?温めてやるから早く来い》
「……うん」
渡したい物もあるし、今日は特に特別な日だから。
夜と一緒に過ごしたかった。
ふわりと、背後から包み込むように抱き締められ吐息がもれる。
《まだ冷たいな》
するりと頬にあてられた掌から、じわじわと夜の熱が伝わってきて。その心地よさに昼は瞳を細めた。
はらはらと、ここでは雪ではなく桜が舞う。
昼は濡れ縁に座った夜の腕の中で、夜は昼を腕の中に抱き締めたままで、
お互い、相手から伝わるぬくもりを静かに感じていた。
「……夜。ちょっと離して」
《どうした?》
抱き締める腕の力が緩み、昼は一旦夜から離れると、自室から綺麗に包装された袋を持ってくる。
そして、夜の隣に座って手にした袋を夜へと差し出した。
「これ、夜にクリスマスプレゼントなんだけど…」
いざ渡すとなると恥ずかしさが込み上げてきて、語尾が小さくなる。
《俺が貰っていいのか?》
驚いて思わず聞き返してきた夜に、昼は迷わず頷く。
「うん。夜が気に入るか分からないけど、開けてみて」
ガサリと夜が包装を解いていくのをどきどきしながら昼は見つめていた。
夜はその呼び名通り、活動時間が夜。陽が落ちてからになる。だから、寒くない様にとマフラーにしてみたんだけど。
《これは…》
紙袋の中から出てきたマフラーに視線を落としていた夜が顔を上げる。
すると夜を見つめていた昼と夜の視線が自然と絡まった。
《…すげぇ嬉しい》
夜は昼の目の前で貰ったばかりのマフラーに大事そうに指で触れ、ゆるりと酷く甘い、優しげな笑みを浮かべた。
《ありがとな。大切に使う》
「…うん」
それを見て、どこか緊張した面持ちでいた昼も自然と笑みが溢れた。
《俺もお前に何かあげてぇけど、何もねぇしな…》
マフラーを手に夜は途端、困ったような表情になる。
「ううん、その気持ちだけで嬉しいよ。それに、夜がいてくれるだけで僕は…」
途中まで言って視線を反らした昼の頬は、桜の花弁以上に紅く色付いていた。
《――っ》
「わっ!」
思わぬ昼の返事に、夜は言葉よりも先に昼を己の腕の中に抱き締める。
《昼…、お前はどこまで俺を惚れさせれば気が済むんだ》
腕の中に閉じ込め、低く囁く…そして、優しく吐息を奪った。
「んっ…よる…」
《ひる…》
恥ずかしそうに瞼をふせた昼に、夜は愛しげに瞳を細め、
《お前が望むままに、俺はずっとお前と共に在る》
唇を離し、真っ赤に染まった耳元へ唇を寄せて、変わらぬ約束をプレゼントとして送った。
□end□
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