ほのぼの(昼+鯉若)

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同じ様に見えて違う毎日
ふとした瞬間感じる幸せ
家族のぬくもり―…



□ほのぼの□



ふわりと、細く開いた障子の隙間から入り込んだ風が、栗色の髪を揺らす。障子に遮られた日射しが、強さを弱めてぽかぽかと柔らかく室内を包む。

壁に背を預け、足の間ですよすよと眠ってしまったリクオに、鯉伴は目元を緩めた。

リクオの小さな手が、まるで鯉伴を逃がさぬように、しっかりと鯉伴の着物を掴み、
甘えるように寄せられた頬が、幸せそうにふにゃりと崩れる。

「ふっ……」

静かな室内。時おり遠くから仲間達の騒がしい声が聞こえてくる。

「んぅ…ぉと…さ…」

胸にかかる愛しい重みに、リクオも日々成長しているんだなぁとしみじみと感じる。

「あんなにちっこかったのになぁ」

リクオが生まれた時の事を思い出して鯉伴はゆるりと瞳を細めた。



ふわふわと降り積もるは、言葉では言い表せぬ程の幸福。思い返せばじわりじわりと胸に広がる愛しさに、鯉伴はそっと瞼を伏せた。


「…鯉伴さん、」

「………」

細く開いていた障子からそよりと優しい風が入り込む。

栗色の髪を緩やかに撫で、長い黒髪を揺らす。

待てども返らない返事に、若菜はくすりと笑みを溢し、側に落ちていた鯉伴の羽織を手にとる。

それを二人の上にそっと掛けて、若菜は細く開いていた障子を静かに閉めた。

鯉伴の部屋を後にした若菜は、今しがた目にしたあたたかく優しい光景に、ふふっと柔らかな笑みを溢す。

すよすよと幸せそうに鯉伴にくっついて眠るリクオと、たぶん、リクオを見ている内に自分も眠くなってしまったのだろう、壁に背を預けたまま瞼を落としていた鯉伴。

普段の鯉伴なら人が近付いた時点で目を覚ますのに、今日は声をかけても起きる素振りすらなかった。

「…もうしばらくあのままにしておきましょ」

口許を綻ばせたまま、ちらりと庭に視線を移せば暖かい日射しが眩しく。
庭には満開の桜。リクオの植えたチューリップが凛と咲き誇り、傍らにはたんぽぽが。池の側には水仙と、春の花ばなが庭先を彩る。

「若菜様、鯉伴様は居ましたか?」

「首無くん。手伝ってもらって悪いんだけど、ごめんね。鯉伴さん探しはもういいの」

「いいとは?」

はて、と疑問符を飛ばした首無に、若菜は別の事を口にする。

「毛倡妓ちゃんは今暇かしら?」

「はぁ、アイツなら先ほど台所に居ましたが…」

「…じゃぁ、悪いんだけど。首無くん、毛倡妓ちゃんと一緒にお買い物に行ってきてくれないかしら?」

本当は重いものがあるから鯉伴さんについてきてもらおうと思ってたんだけど、二人に頼んでもいいかな?

「私で良ければついて行きますが?」

「それはダメよ、首無くん!毛倡妓ちゃんと一緒にお願いね」

今、メモとお金を渡すから…と若菜は台所へ足を進める。

「はぁ…?」

その後をワケが分からないと戸惑いながらも首無がついて行った。







ほこほこと体を包むぬくもりに微睡みながら、リクオはゆっくりと瞼を押し上げる。

「…ぅ……」

ぼんやり見つめる先に、見慣れた色の着物があって。自分の小さな手がその着物を握りしめている。

きょろりと目線を上げれば、優しくて大好きなお父さんが、眠る前と変わらずそこいた。

「…おとうさん」

「ん…?」

リクオは小さな手を伸ばして、ぺしぺしと鯉伴の頬を叩く。

ふるりと震えた瞼の下から、金の瞳が現れるのをリクオはジッと見つめて待つ。

「…ん、…リクオ?」

ふぁぁっと欠伸を漏らした鯉伴は、はらりと落ちた羽織を右手で掴み、残る左手で見上げてくるリクオの頭を撫でた。

「あ〜、寝ちまったのか」

閉めきられた障子と、掛けられていた自分の羽織に苦笑が浮かぶ。

「おとうさん?」

くしゃりとリクオの髪に触れていた手を下ろし、鯉伴はリクオに視線を向けた。

「若菜のとこ行くか」

「いく!」

さっと立ち上がったリクオに続いて、体を解しながら鯉伴も腰を上げる。

障子を開けて、とてとてと先を歩き出したリクオの後を、鯉伴は羽織を肩に引っ掛け、ゆったりとついていく。

「おかあさん!」

若菜を見つけて走り出したリクオに鯉伴はふと笑みを溢して、その声に振り返った若菜に鯉伴は声を投げた。

「若菜、羽織ありがとな」

「良く眠れました?」

足元に抱きついてきたリクオを受け止め、若菜は微笑む。

「あぁ、自分でも驚くぐれぇな」

鯉伴も口許を緩め、笑って返す。
そんな二人の間で、リクオも嬉しげににこにこと笑みを浮かべていた。



end




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