いっしょに(昼+鯉若+α)
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僕とお父さんとお母さん
お祖父ちゃんと組のみんな
奴良家は今日も平和に回っている―…
□いっしょに□
ちょこちょこと後ろを付いて回る小さな足音。
ピタリと足を止めれば、同じ様に向こうも足を止めた。
そしてまた歩き出せば…ちょこちょこと。
「う〜ん、何なんだいったい…」
周りからは微笑ましいとくすくす笑う声。あたたかい視線。
鯉伴は少し歩く速度を上げて廊下を右に曲がり、さっと体を反転させる。
その場にしゃがんで、急いで追いかけて来るだろう可愛い息子を待ち構えた。
…とたとたとた。
「わぁっ!?」
案の定、リクオは飛び出して来て、待ち構えていた鯉伴の胸にぼすりと突っ込む。
「捕まえたぜリクオ。お前はいったい何をやってんだ?」
気付けば朝からリクオは鯉伴の後を付いて回っていた。
ん?と顔を覗き込めば、リクオは何が不満なのかぷぅと頬を膨らませて顔を横へ反らす。
「はなして」
くぃくぃと鯉伴の着物を引いてリクオは嫌がった。
その仕草に、可愛いなぁと頬を緩めるも、鯉伴は付いてくるリクオが気になってしょうがない。ので、ここは、と気を引き締める。
「ダメだ。何で俺の後を付いてくるんだ?」
きゅっと少しだけリクオを抱く腕に力を入れ、鯉伴はなるべく優しい声で聞いた。
けれどリクオはそれに答えず、じたばたと自力で鯉伴の腕から逃げようともがく。
しかし、そこは大人と子供。リクオはどうやっても敵わない。
鯉伴はつい、リクオが次はどうするのかとのんびり見ていた。
…暫くして、逃げられないと分かったのかリクオの大きな瞳にジワリと涙が浮ぶ。
「ぅ〜…」
「っ、リ、リクオ!?」
それを見て鯉伴は驚き、常の余裕はどこへやら、酷く狼狽え、慌てた。
急いでリクオを腕の中から放してやり、頭を撫でてあやそうと…。する前に、リクオはとたとたと来た道を走っていってしまう。
「あ……」
残された鯉伴はしまったと言う表情を浮かべて、同じく空中に取り残された右手で頭を掻く。
「まいったなぁ」
泣かすつもりはなかったんだけどなぁと、二代目の威厳も遠い彼方へ、鯉伴は肩を落とした。
あの様子じゃ若菜の所へ行ったか、首無、もしくは大穴で親父のとこか。
何にせよ、鯉伴は急ぎ足で今来た道を戻る。
すたすたと…廊下を進み、角を曲がって。…ちょこちょこと。
「ん…?」
はたと鯉伴は何かに気付いて首を傾げる。
足を止めぬまま、顔だけで振り向けば、いつの間にかまたリクオが後をちょこちょこと付いて来ていた。
さすがの鯉伴もこれには困惑するしかない。
いったい何なんだ…?
また捕まえて泣かれても困るしと、鯉伴は途方にくれたまま進む。
「う〜ん…」
ちょこちょこちょこ。
リクオが付いてくるので危なくて外には行けないし、鯉伴は広い屋敷の中をあてもなくふらふらと歩く。
その内に、洗濯籠を抱えた若菜とばったり出くわした。
「お、若菜。ちょうど良いとこに」
助かったと安堵の表情を浮かべ、声を掛けてきた鯉伴に若菜は小首を傾げる。
「どうかしたの?」
そしてその視線が不意に鯉伴の後ろへと移って、若菜はあら、と破顔した。
「お父さんに遊んで貰ってるのねリクオ。良かったわねぇ」
「うん!」
若菜の台詞にリクオはとっても嬉しそうに、にぱっと笑って頷く。
「遊んで…?」
若菜とリクオの間では何やら意味が通じているらしいが、鯉伴にはさっぱりだ。
どういう事だと鯉伴は真面目な顔をして若菜に視線で問うた。
すると若菜はそんな鯉伴を見てくすくすと笑みを溢す。
「そんなに難しく考えなくても大丈夫よ。鯉伴さんの後を付いてくのがリクオの遊びなのよ」
「…分からねぇな。それって楽しいのか?」
立ち話をしている間にリクオはその遊びに飽きたのか、とととと、っと距離を詰めて、鯉伴の足元にぽふっと抱き付いた。
足元の軽い衝撃に、鯉伴はリクオの頭を見下ろし、持ち上げた右手でわしゃわしゃと髪を掻き混ぜてやる。
「ふふっ。リクオはお父さんと一緒にいれるのが楽しいのよねー」
上から降ってきた声にリクオは鯉伴の足に回した小さな手で、きゅっと鯉伴の着物を握り、えへへと嬉しそうに二人を見上げた。
「おかあさんもいっしょにあそぼ?」
ね?と期待した目で見られて若菜はその場に膝を付く。リクオと視線の高さを合わせて洗濯籠を見せて言った。
「お母さんもリクオと一緒に遊びたいんだけど、洗濯物を干さなきゃいけないの。ごめんね、リクオ。その分お父さんが遊んでくれるから」
「ん〜…」
ちょんとリクオは首を傾げ、鯉伴と若菜を交互に見て、またにぱっと笑った。
「ぼくも手伝う!おとうさんといっしょに!ね?」
きらきらとした目で、今度は鯉伴が見つめられ、鯉伴は思わず頷く。
「お、おぅ」
「じゃぁ、お願いしてもいいかしら?」
「あぁ。…どうにもリクオのこの笑顔には勝てそうにねぇなぁ」
立ち上がり、伺うように鯉伴を見た若菜に、鯉伴は足元にくっついているリクオの頭を撫でながら苦笑して頷き返した。
ぽつぽつと浮かぶ雲。陽射しを遮るとまではいかない薄雲に青い空。
広い奴良組の屋敷の庭先にばさりと真っ白なシーツが広がる。
物干し台に手の届かないリクオは洗濯籠から取り出した洗濯物を若菜と鯉伴にはいっと、にこにこしながら手渡す。
「ありがとう」
それを若菜と鯉伴が二人で物干しに掛けていった。
「おっ、何しとるんじゃリクオ」
「あ!おじいちゃん!」
その庭先へ、ぬらりひょんが煙管を片手に携え姿を見せる。ゆったりとした動作で近付いてきたぬらりひょんに、若菜は柔らかく笑って口を開いた。
「洗濯干しの手伝いをしてくれてるんですよ」
「ほぅ、洗濯干しの手伝いか。偉いのぅリクオは」
リクオの直ぐ横で立ち止まったぬらりひょんは、くしゃりとリクオの髪を撫でて褒める。
「おい親父。煙管持ったままリクオに近付くな。危ないだろぉが」
「おじいちゃん」
ひょいと持っていた煙管を鯉伴に盗られ、些かむっとするもリクオがぬらりひょんの着物をくぃくぃと下から引いてきて意識が反れる。
「なんじゃ?」
「おじいちゃんもいっしょにあそぼ?」
「も?」
「うん!おとうさんと、おかあさんと、おじいちゃんと、それから…」
自分の指を折って数えていたリクオはそこで言葉を途切れさせると、ぬらりひょんの向こう側に見えた人影に向かって声を上げた。
「首無ー!首無もいっしょにあそぼ!」
「え?若?私ですか…?」
ちょうど庭に面した縁側を通りかかった首無は、いきなり声を掛けられてよく分からずに戸惑う。
「首無。暇ならお前も付き合え」
その様子に鯉伴は苦笑を浮かべ、可愛い息子の為に口を挟んだ。
「はぁ…。これといって用事はありませんが」
「良し。それでリクオ、何して遊ぶんだ?」
「あのねー…!」
リクオのきらきらした茶色の大きな瞳が、それはもう楽しそうに輝く。見る者全てを和ませるほわりとした笑顔が奴良家の庭に溢れた。
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