庭の片隅(昼+鯉若)


咲いた、咲いた
チューリップの花が
並んだ、並んだ
赤、白、黄色―…



□庭の片隅□



オレンジ色の小さなシャベルを手に、ザクザクと熱心に土を掘るリクオ。庭の一角にしゃがみ込んだリクオの側には玉葱、…ではなく、リクオの小さな手と同じ大きさの球根が六つ転がっていた。

更にその横には、可愛らしいゾウさんの形をした緑色のジョウロ。

「ん〜〜、これぐらい?」

こてっとリクオは首を傾げ、土を掘る手を止めて、隣で膝を付いて見守っていた若菜を見上げた。

「そうねぇ。…良し、じゃぁ次は球根を植えましょうか」

穴の深さを確かめて若菜はリクオに笑いかける。

「ん!」

それにリクオはぱっと華やいで転がっていた球根を一つ手に取った。

「ちゃんと芽が出るように頭を上にして、そうそう…上手ねリクオ」

慎重に、真剣に球根を植えるリクオの姿が微笑ましくて若菜の教える声も自然と柔らかくなる。

「つぎは?」

「次はね、掘り出した土を球根が風邪を引かないようにかけてあげるの」

「わかった!」

せっせと掘り出した土をかけるリクオの手は泥だらけだ。服が汚れるのにも気付かず一生懸命に。

「ふふっ…。そうそう。土をかけ終わったら軽くポンポンって」

残りの球根も同じ様に植えるリクオと、その指導をする若菜。

羽織を肩に引っ掛け、縁側に座った鯉伴はそんな二人を眺めて表情を緩める。

「チューリップか。来年の楽しみが増えたな」

冷たい冬を越えて色付く優しくあたたかい春の花。

愛らしい二人の嬉しそうな顔が今から想像できて笑みが溢れた。

ゾウさんのジョウロでちょろちょろと水をあげて、球根を植え終わったリクオはさっそく若菜にいつ咲くの?と聞いている。

初めて自分で植えたものだから楽しみでしょうがないらしい。

わくわくとした顔で問うてくるリクオに若菜は柔らかい笑みを浮かべ、リクオと視線を合わせて答える。

その間を肌寒さを増した風がひゅうと吹き抜ける。

秋の日はつるべ落とし、か。

肌を撫でる冷たさを帯びた風に、鯉伴はゆったりとした動作で縁側から立ち上がると、二人に向かって声を投げた。

「若菜、リクオ。終わったんなら風邪引く前に家に入れよ」

「「はーい」」

すると元気の良い声が揃って返され、鯉伴は目に写る愛しい光景にゆるりと瞳を細めた。

そして、悪戯されぬよう柵を設けた庭の片隅。

すくすくと成長し始めたチューリップが咲いたのは、暖かさが身に馴染んできた四月の中頃のことだった。

赤と白と黄色と…。
桜の桃色、草木の緑、庭先には色彩が溢れ。

花開いたチューリップを、リクオは鯉伴と若菜の間に挟まれて一緒に見る。

「このチューリップ、僕が育てたんだよ!」

「一生懸命やってたもんなぁ」

「良かった。綺麗に咲いたわねぇ」

ぽんと鯉伴の大きな掌がリクオの頭に乗せられ、若菜の優しい眼差しがリクオに向けられる。

「えへへ…」

鯉伴と若菜に褒められて、リクオはふにゃりと嬉しそうに笑い、どこからともなく現れた紋白蝶も浮かれたようにひらひらとチューリップの周りを飛ぶ。

それはとある晴れた日の小さな出来事。
日常の中で生まれた小さな幸せ。



end



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