03
お盆を手に首無が戻ると、縁側には鯉伴と鯉伴に抱き上げられ嬉しそうに笑うリクオがいた。
あのクマのぬいぐるみは鯉伴の隣にちょこんと行儀良く座っている。
「そうか、皆に見せてきたのか」
「うん!みんな、クマさん可愛いって言ってくれたよ!」
鯉伴の膝の上に下ろされ、リクオは鯉伴に抱きつきながら余程嬉しかったのか話続ける。
「おじーちゃんも牛鬼も、狒々さまも鴉もみんな!」
「そりゃすげぇな」
そうそうたるメンバーに鯉伴も少しだけ驚き、笑顔の絶えないリクオの柔らかな髪を優しく撫でた。
その様子に、首無は持ってきたお盆を手にしたまま踵を返す。
台所へ戻れば若菜がお昼の支度を始めていて、戻ってきた首無に首を傾げた。
「あら?お茶を持っていったんじゃ…」
「えぇ、まぁ。もう一つ貰えますか?リクオ様の分なんですが」
「あっ、そういうことね。今、ジュース用意するから待っててもらえる?」
「はい」
冷蔵庫に常備されているオレンジジュースを取り出し、落としても怪我のない様にプラスチックのコップに注ぐ。
それをお盆に乗せて、首無は再び鯉伴達の待つ縁側へと足を進めた。
「あ!首無だ」
鯉伴の肩越しから顔を覗かせたリクオが首無に気付いて声を上げる。
クマの置いてあるのとは反対側に膝を付き、首無はお盆を下ろした。
「お茶持ってきましたよ。はい、リクオ様にはオレンジジュースです」
「わぁ!ありがとう首無」
すとんっと鯉伴の膝から下りたリクオはクマの隣に座ってさっそくコップに口を付ける。
「リクオの分を取りに行ってたのか」
鯉伴はどうやら首無が引き返したのに気付いていたらしい。
にこにことオレンジジュースを飲むリクオを見つめて首無はふと笑みを溢す。
「お茶では苦くて分けてあげられませんから」
「そうだな」
二人の視線を感じてリクオが鯉伴と首無を見上げる。
「…ん?」
ちょこんと首を傾げたリクオの髪に触れ、鯉伴も穏やかに笑った。
「何でもねぇよ」
湯飲みに口を付け、少し冷めてしまったお茶を飲む。鯉伴にならって首無も湯飲みを傾け、緩やかに時が流れる。
いつしか庭で騒いでいた者達も縁側に寄ってきて、鯉伴とリクオを中心に自然と輪が出来上がっていた。
誰かがまたお茶を運んできては他愛もない話に花を咲かせる。
「若、そのぬいぐるみどうしたんですか?」
リクオの腕に抱かれたクマのぬいぐるみに話が移るとリクオはパッと満面の笑みを浮かべて話し出し、それを鯉伴が愛しげに瞳を細めて見つめる。
もはや見慣れた奴良組の光景に、二人の側で首無もまた微笑ましげに笑い、一生懸命話すリクオの言葉に耳を傾けたのだった。
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