02


スッと襖が閉められ、リクオの姿が廊下から消える。心配することもなくなったと、漏れ聞こえてくる楽しそうなリクオの声を背に毛倡妓と首無は今来た道を戻る。

「顔は見られなかったけど、牛鬼様も狼狽えることがあるのねぇ」

ふふっと面白そうに笑った毛倡妓に首無も苦笑するしかなかった。

「リクオ様にしか出来ないことだろう」

中庭に面した縁側を行けば、庭にはいつもの光景が広がる。

そこに、池から顔を出し騒がしい庭の一角をやれやれと眺める河童。何かと張り合う黒田坊と青田坊。納豆小僧や小さい妖達が集まりやんやと騒ぎ立てている。また、その反対側では雪女が洗濯物を干している若菜を手伝っていた。

「ひっひ、ここはいつ来ても賑やかだのう」

「うるさいだけですよ」

庭に目を向けていた首無達の前から、すらりと背の高い、能面で顔を覆った狒々が鴉天狗に案内されて歩いて来る。

「猩影も連れてくりゃよかったか」

「猩影と言うと確か…お主の息子か」

擦れ違う時に軽く会釈をして狒々と鴉天狗はそのまま首無達が来た方向へ遠ざかって行く。

「それじゃ首無、私ちょっと用事があるから」

「外に出るなら気を付けろよ」

「誰に言ってんのさ」

ふと笑みを溢し、着物の裾を翻して毛倡妓も廊下の角に消えた。

「さて…」

特にこれといってやることも無い首無は、ふわふわと浮いた顔を上げて、空の眩しさに瞳を細める。
そこかしこから聞こえてくる賑やかな声に表情を緩め、縁側に腰を下ろした。

「たしかに賑やかというより少しうるさいかも。…けど、それがちょうど良いのかな」

それほどに平和だということ。

のんびりと首無が縁側で寛いでいれば何処かに出掛けていたのか、庭から鯉伴が姿を現す。

「暇そうだな首無」

「まぁ…。二代目はどちらへ?」

庭から縁側に上がり、よいしょと隣に腰を下ろしてきた鯉伴に首無は聞き返した。

「散歩がてらちょいと薬鴆堂にな」

「お一人で?」

「……ンなことより、暇なら茶に付き合えよ」

小言が続きそうな雰囲気を感じとり、鯉伴はさっさと話を変える。

総大将といい二代目といい、二人はお供も付けずふらりと一人でどこかへ行ってしまうのが常だ。
首無は鴉天狗が口煩くなるのも分かる様な気がして、ふぅと一つ息を吐いた。

「お酒で無くて良いんですね?」

「あぁ。この間、昼間にちょいと飲んでたらリクオが俺の真似して酒飲みそうになってな。若菜に注意されてんだ」

その話を聞いて首無は先程見かけたリクオの所作はもしや…、と思う。だが、証拠もないので首無はその事には触れず、腰を上げた。

「では、お茶をいれてきます」

「おぅ、待ってるぜ」

軽く応えた声に促され、首無はお茶をいれに台所へと向かった。




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