牛鬼謀反編@(夜昼)
昼は人間、夜は妖怪
昼は守りたい者達の為に
夜は昼が守りたいと思う者の為に
今、刃を解き放つ―…
□牛鬼謀反編@□
「どうしてこんなことに…」
リクオは肩を落とし、ため息と共に呟いた。
若、若は私が守りますから!
リクオから少し離れた場所で、つららが一人決意を固める一方で、清継率いる清十字怪奇探偵団の捩眼山、妖怪修業は始まったのだった。
◇◆◇
そして、リクオがソレに気付いたのは清継と島が二手に別れてしまってから。
「…しまった!つららは島くんを追って!早く!」
「え?は、はいっ!」
リクオは清継の後を追いかけながら、肌身離さず持ち歩いている祢々切丸を取り出す。
「ごめん清継くん!」
そして、少し乱暴かと思ったけど祢々切丸の鞘で清継の後頭部を叩いた。
―ガッ!
「―っ!?…ん!…ぁ…れ…?」
ピタリと足を止めた清継は一瞬我に返ったものの、そのままバタリと気を失って倒れた。
《おいおい。そんなことしちまっていいのか、昼》
「夜!起きてたの?」
《さっきな。それより雪女の方は大丈夫なのか?》
「そうだ!早く行かなきゃ」
見たところ、清継くんと島くんは誰かに操られている様だった。
《誰か、じゃねぇだろ昼。ここは捩眼山だ》
自ずと行き着く答えを前に、つららの姿を視界に捉えリクオは叫ぶ。
「つらら!?」
「きちゃだめです若!」
敵にやられたのか、傷だらけになり、命の危機に晒されながらもリクオを守ろうと声を上げるつらら。
「つらら!」
「…逃げて、若――!!」
今にも振り下ろされんばかりの刃に、リクオの鼓動がドクリと一つ大きく跳ねた。その瞬間、
《力を貸してやる》
内側から夜の声が聞こえ、ぐんと昼の体の身体能力が上がった。
瞬きの間につららを敵の刃の届かぬ距離へ、腕に抱えてリクオは移動してみせる。
「なっ!?」
驚きに眼を見開く敵を見据えたままリクオは小さく呟いた。
「ありがと、夜」
《雪女は俺の仲間でもあるしな》
「…ぅ…、リクオ様。お下がり…下さい」
痛みを耐えながら、体を起こそうとするつららにリクオは静かな声で返す。
「バカ言うな。お前…大ケガしてるぞ」
「でも…私がやらなくて…誰がリクオ様を守るんです!」
大きな声が余計怪我に響いたのか、つららはうっと呻いて再び上体を崩す。
「ざまぁねぇな。そんな弱っちい娘に守ってもらわなきゃーならない妖怪の総大将なんてよ…」
そんな奴、不必要だと思わんか?
《何だと?》
嘲笑めいた敵の台詞に、リクオの中の夜が反応を示した。
ざわりとリクオの纏う気配に夜が混じる。
ふらふらと立ち上がったつららをリクオは引き留めた。
「ダメだ、つらら。立つな」
「でも…、でもリクオ様は!人間なんです!リクオ様が傷付いたら…私…」
必死で守ろうとしてくれるつららの想いが、リクオを強くする。
《昼。ここまでされちゃ黙ってられねぇぜ》
「うん」
くしゃりとつららの後頭部を撫で、リクオは強い眼差しで敵を見据えて言った。
「いーから。心配しなくていい。…待ってろ」
「え……?」
「死ね、奴良 リクオ」
鞘から抜いた祢々切丸を右手に、襲いかかってきた敵を迎え撃つ。
「…!!…若ぁ!」
―ギィィン!
ぶつかり合った刃が甲高い金属音を立てる。
《刀の扱いは俺が直々に教えたんだ。てめぇ何かに昼が負けるかよ》
リクオは一旦敵から離れ、間合いをとる。
「…フン、この牛頭丸の"爪"がふぬけにかわせるか!」
それを逃げととった牛頭丸はここぞとばかりにリクオに斬りかかった。
しかし、牛頭丸の刃はリクオに届かない。
「若……?」
こんな…なんで?
リクオ様昼のお姿なのに…
おかしい…こいつ…
たしか…
覚醒しなければただの人間ではないのか…?
―ギィン!
牛頭丸が振り下ろした刀を受け止め、隙を探していたリクオは不意に耳に入り込んで来た呪にクラリと一瞬意識が遠退く。
「――っ」
牛頭丸はその隙を逃さず背にある爪を二爪広げ、リクオの身を切り裂いた。
「若っ、あぁ…!!」
「牛鬼組は人をあやつり、惑わしひきよせる"おそれ"の代紋。…人間ふぜいに、負けるはずが…ねーんだよ!」
先の攻撃で吹き飛ばされたリクオに、牛頭丸の刃と二つの爪が再び迫る。
一回、二回と刃を交えるも牛頭丸の爪が徐々にリクオを一本の大木へと追い詰めた。
「くっ……」
《昼っ!もう変われ!陽はとうに沈んだ!》
ガチガチとぶつかり、擦れ合う刃。背にある爪を六爪に増やし、勝ちを悟った牛頭丸は声も高らかに告げた。
「それで止めてるつもりかぁ!…これで最期だ!」
「夜――…」
ザシュ、と赤い血が辺りに散る。
闇夜の中に銀の髪が煌めく。
「なぜだ…、妖怪でもねぇ…てめぇに…」
薄茶から金へと変化した鋭い瞳が闇を切り裂き、姿を露にした。
「血なら流れてる。悪の、総大将の血がな…」
昼から夜へと姿を変えたリクオの背後で牛頭丸は力無く崩れ落ちた。
「もう大丈夫だぜ」
祢々切丸についた血を払い、鞘へと納めながらリクオはつららを振り返る。
「若…良かっ…」
すると、気が緩んだのかつららはその場で気を失ってしまった。
「おっと…。おい」
《そのままにしておいてあげよう?》
「あぁ。…それより怪我は」
《僕が治すよ。夜、少し交代して》
「違ぇよ。お前のだ。牛頭の爪でやられたろ」
するりと簡単に入れ代わった昼と夜。昼がつららの怪我の部分に手を当てると淡い光が溢れ出した。
「見た目より酷くはないよ」
ぬらりひょんの力を夜が。珱姫の癒しの力を実は昼が受け継いでいた。
昼の力については本当にお互いしか知らない秘密だ。
《怪我が大きいとか小さいとかそう言う問題じゃねぇ》
「ん、良し。もう良いよ夜」
すっと表に出た夜はつららの背に手を添え、もう一方の手を膝裏に差し込む。
「昼を傷付けた落とし前はきっちりつけてやらねぇとな」
《ちゃんと話も聞かないとね。これまでの事とか》
つららを横抱きにして持ち上げ、リクオは一歩足を踏み出す。
向かうは捩眼山、山頂―――
*牛鬼組の代紋、漢字変換不可の為平仮名で表記
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