冷酒(夜+鴆)
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さわさわと草木が揺れ
昼の内に熱された空気が流れていく
星の瞬く夜空を眺めながら―…
□冷酒□
賑やかな声を背に聞きながら、夜のリクオは人知れず縁側へと腰を落ち着ける。
袂から朱塗りの盃を取り出し、台所から失敬してきた酒瓶を開けた。
とくとくと盃に注いだ透明な液体がゆらりと揺れる。瓶を側に置き、良く冷えた酒で唇を湿らせ、盃を傾けた。
「………」
程なくしてキシリと床板を踏む音とこちらに近付いてくる者の気配に気付く。
しかし、夜はあえて行動には示さず、盃に口を付けて相手が近付いてくるのを待った。
「おいおいリクオ、一人涼しく酒盛りか?」
そう言いながらドカリと遠慮なく夜の隣に腰を下ろしてきたのは鴆だった。
夜は側に置いた酒瓶を手にとり、チラリと鴆に視線を投げる。
「飲むかい?」
すると途端に鴆は好相を崩し、どこから持ってきたのか盃を取り出す。
「いいねぇ。ありがたく貰うぜ」
リクオの酌で鴆は酒を飲む。
お返しに一献注ぎ返して、鴆は機嫌良く笑った。
軒先に吊るされた風鈴が涼しげな音を奏で、言葉少なに盃を傾ける。
鳴き始めた夜の虫の音を聞きながら、ゆるやかに夜は更けていった。
□end□
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