清継くんの幸不幸(夜昼+清継)
たった一度の遭遇
追い求める者は直ぐ側にあり
しだれ桜に凭れて微笑を溢す
一向にまみえぬその真実を胸に―…
□清継くんの幸不幸□
昼のリクオが学校に通っている間、俺は大抵昼の中で眠っている。
《ん…?》
ただし、昼の感情が大きく乱れたり、揺らいだりした時には直ぐ起きる様にしていた。
垂れ桜の枝に腰掛け、太い幹に背を預けた体勢で、うっすらと瞼を押し上げる。
耳元でざわざわと騒ぎ出した桜に俺は目を覚ました。
《昼…?》
右手を己の胸に添え、側にある池を見下ろす。そこに外の世界を映し出し、昼の心を動揺させた原因を見る。
「え〜と、あの、だから…!」
「良いかい奴良くん!明日からの連休、奴良くん家で清十字怪奇探偵団の合宿を行う!これはもう決定事項さ」
そこに、昼を困らせている清継の姿が。
コイツも懲りねぇな…。
だからいつまで経っても俺に会えねぇんだぜ。
ゆるりと夜は楽しげに口端を吊り上げる。
昼と清継は知らない。
実は始め、度々昼を困らせる清継を見ていた夜がちょっと懲らしめる意味で意図的に清継には会わないようにしていたことを。
それが何時しか夜の娯楽の一つとなっていた。
如何にして清継から逃げるか。もう殆んど鬼事に近い。
そして此度もまた。
清継の妖怪に対する熱意に押しきられて開催された一泊二日の奴良家合宿。
昼間に妖怪探索だと張り切って動いていた清継は、やはりその日も妖怪に会うことは出来ず。真夜中、その分ぐっすりと夢の中へ。
「あぁ…、貴方は百鬼夜行の主…!ついに、ついに僕は…!」
布団の中から右手を何もない天井に伸ばし、むにゃむにゃと嬉しそうに清継が寝言を呟く。
「う〜…、清継くん、うるさいっす…」
そこから少し離れた場で、清継の追い求める主はふと口端を吊り上げ笑った。
「こんな近くにいるのにな」
クツクツと笑った夜に、己の内側から声が返る。
《夜は清継くんが嫌いなの?》
真意を知らぬ昼から見れば、清継を避ける夜はそう見えるかもしれない。
心配そうな声音で問うてきた昼に、夜は安心させるよう首を横に振った。
「別に嫌いじゃねぇ。…面白いからな」
《じゃぁ何で会ってあげないの?》
「なんとなくだ」
定位置であるしだれ桜の枝に腰掛け、夜は機嫌良さそうに盃を傾ける。
《…気に入ってはいるんだ?》
「お前とは別の意味でな」
夜は酒を飲み下し、ふっと口元に弧を描いた。
《もしかして…清継くんで遊んでる?》
「心配すんな。アイツに何かするつもりはねぇ」
《その辺は信用してるから。でも、いいのかな?》
「いいだろ。アイツだって楽しそうじゃねぇか」
ほら、と視線を向けた先には、酷く幸せそうに眠る清継。
「待って、僕の…」
夢の中でも妖怪を追っているらしい。
これには昼も苦笑するしかなかった。
《さすが清継くんというか何というか…》
「な?」
気に入られ、遊ばれているとは知らぬ清継。それを知らぬことは彼にとって幸か不幸か。清継の妖怪探索は続く―…。
□end□
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