想いの先(夜昼+総大将+鴆)


とある休日の昼下がり
キミの事を人づてに聞き
無性に会いたくなる―…



□想いの先□



「おはようございます、若」

「おはよ」

組の皆と挨拶を交わし、朝御飯を食べて、いつもの日常が始まる。

今日は清十字団の活動もないし、久し振りにのんびり出来るなぁ。

柔らかな日射しを浴びて、すたすたと袖の中に両手を突っ込み廊下を自室に向かって進む。

「ん…?」

その時ふと、通りすぎた座敷の中央に小妖怪達が何やら集まっているのが見えた。

何やってるんだろ?

一歩戻って中を覗くとそこには…

「あーっ!ダメじゃないか!勝手に菓子折り食べちゃ!どうせまたじぃちゃんがどっかから盗って来たんだろ」

ビリビリに剥かれた包装紙と中身が半分無くなった箱。

リクオの大声にビクリと肩を震わせた小妖怪達は慌てて否定の言葉を紡いだ。

「ち、違います!これは総大将でなく鴆様が…」

「え?鴆くん来てるの?」

「はっ、はい。先程総大将と自室の方へ行かれましたが」

リクオはふむと暫し考える仕草をした後、怒ってごめんねと言い残して座敷を出た。

鴆くんに会うのも久し振りだな。夜は良く会ってるみたいだけど。

ぬらりひょんの私室に近くなると鴆くんの声ともう一つ、若い声が聞こえてきて…

「って、まさか…」

じーちゃん!と入室の挨拶もなく僕は障子に手をかけていた。

「おぉ、リクオ。今誰かに呼びに行かせようと思うとったところじゃ」

「若、昼間にこうして会うのは久し振りですね。おかわりありませんか?」

「あぁ、うん。僕は元気だよ。じゃなくて、じぃちゃん!また何してんだよ!…あっ、もしかして鴆くんを巻き込んだりしてないよね?」

息も切らさず言い切り、普段の愛嬌はどこへ行ったのやらリクオはキロリとぬらりひょんを睨み付ける。

しかし、ぬらりひょんには何処吹く風。孫の怒りなど可愛いもので。

「そんなことよりどうじゃ、ワシの若かりし頃の姿は」

黒い着物に、赤い羽織。
右手に煙管を持ち、肘掛けに右肘を付いて、ニィと口端を吊り上げて見てくるぬらりひょん。

その姿が、夜に被って見えてリクオは言葉を詰まらせた。

「ぅっ…。べ、別に普通じゃない?」

「くくっ、遠慮せず素直にじぃちゃん格好良い、と言ってくれて構わんぞ」

一瞬狼狽えたリクオにぬらりひょんはクツクツと笑って言う。

「誰が!」

ふぃと反らした視線の先には表情を緩めて二人のやり取りを見ている鴆がいた。

「まぁ、そう言うなよリクオ。夜のお前は総大将そっくりだぜ」

自分じゃ知らねぇだろ?と言われて、鴆くんにはまだ言ってないんだったと気付く。

夜と昼の事はじぃちゃんだけしか知らないんだった。


夜の姿を知らないと思っている鴆は、リクオに夜の活躍を語ってくれる。

その中には僕が眠ってしまっていて知らなかった夜の姿が含まれていて、つい聞き入ってしまう。

「それで?」

「おぅ、一太刀よ。あの時のお前ときたら化け猫横丁中の視線を独り占めしてたなぁ」

「へぇ、凄いね…」

素直に感嘆する気持ちと、何だか少し羨ましい気持ちが心の中に生じてもやもやしてくる。

「凄いって、他人事じゃねぇだろ。お前が覚えてなくても、お前がやったことに変わりはねぇんだ」

「う…ん」

そんな僕の心情を察してか、今まで黙っていたおじぃちゃんがクツリと笑った。

「何じゃリクオ、いっぱしに妬いておるのか」

「え?やく…?」

「総大将?何を…」

二人の視線を集めたぬらりひょんは鴆に視線を向けて続ける。

「コヤツの中にはなぁ、二つの命があるんじゃ。昼は人間、夜は妖怪」

次いでリクオへと視線が移る。

「自分の知らぬ夜を鴆が知ってる事に嫉妬したんじゃろぉが。ふっ…、まだまだケツの青いガキじゃなぁ」

「「!?」」

クツクツと、リクオの秘密を勝手に暴露したぬらりひょんは一人、愉快そうに笑い。リクオと鴆は別々の意味で互いを見て驚いた。

「ぼ、僕が鴆くんに妬いたって、そんな…」

「命が二つってこたぁ、昼と夜はやっぱり別なのか…?」

突き付けられた感情を示す言葉にリクオは顔を赤くする。でも、その耳には鴆の真剣な言葉も確りと届いていて。

「僕は…」

赤くなりながらも不安げに揺れる瞳を向けられ、リクオより遥かに年も人生経験も上の鴆は先に落ち着きを取り戻す。

「ゴホン…ったく、そんな顔すんな。確かにちょっとばかし驚いたが、お前に変わりはねぇだろ。人間でも妖怪でもリクオはリクオだ」

実は少し、そんな気はしていたんだ。と鴆くんは変わらず優しく笑った。

「ふ…、めでたし、めでたしじゃな。隠し事ものぉなって、これで安心して鴆を頼れるじゃろリクオ」

「じぃちゃん…」

もしかして鴆くんと合っていたのはその為?

ぐしゃぐしゃと髪を撫でてきたぬらりひょんの手は全てを包む様に大きく、温かい。

「鴆、この先もリクオのこと頼んじゃぞ」

「はい。それはもう…」

しっかりと頷き返した鴆にぬらりひょんはまた一つ、ふと笑みを溢した。
これも可愛い孫の為じゃ…。



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