母の日(若菜+夜昼)


朝も昼も夜も、笑顔の絶えない賑やかな屋敷
奴良組を支える明るい笑顔に感謝の言葉を―…



□母の日□



赤、白、ピンク、黄色、紫。
休日の今日、リクオはとあるお店に来ていた。

「カーネーションってこんなに色があるんだ…」

そう、今日は母の日。
若菜に渡すカーネーションを買いにリクオは近場にある生花店に来ていた。

「う〜ん、何色が良いんだろ?普通は赤…なのかな?」

カーネーションの前で立ち止まりリクオは首を傾げる。

「赤…?」

鮮やかな赤いカーネーションに指先を伸ばし触れる寸前、別の声が割って入った。

《違う、ピンクだ》

「え?」

それは昼のリクオにだけ聞こえる夜の声。
リクオは赤いカーネーションの隣に並んでいたピンクのカーネーションを手に取る。

「これ?」

《あぁ…。お袋には赤よりピンクの方が似合うだろ》

「う、ん……?」

ふと夜の台詞を聞いてリクオは何かが引っ掛かった。
…あれは何だったか。

《昼?どうかしたか?》

「え?あ、何でもな……あっ!」

思い出した!

それはリクオがまだ小学校に上がる前の話。
右手を引かれて入ったお店で、今日と同じ様にカーネーション(その時は何の花か分からなかったけれど)を前にして、リクオが首を傾げた時に返された言葉。

〔どうして赤じゃないの?〕

〔それはな、若菜には赤よりピンクの方が似合うからだ〕

そう言って、鯉伴はピンクのカーネーションを買っていた。

《おい、どうした昼?》

手にしたピンクのカーネーションをジッと見つめ動きを止めたリクオに夜の心配そうな声がかかる。
ほんの少し思い出に浸っていたリクオはその声に引き戻され、口許を緩めた。

「夜がお父さんと同じこと言うからちょっとびっくりした」

《親父と?》

「うん。お母さんには赤よりピンクだって」

手にしたピンクのカーネーションを持ってリクオはレジに向かう。

《親父もお袋に花やってたんだな》

「うん。たしかその後は…僕をおじいちゃんに預けて二人でデートしてたみたい」

くすりと笑みを溢し、お父さんと夜が言うんだから間違いないと、リクオはピンク色のカーネーションを買って屋敷へと帰った。



そして、少し気恥ずかしかったけれど若菜に感謝の気持ちを込めてピンクのカーネーションを手渡した。

「お母さん、これ…。いつもありがとう」

「あらぁ、ありがとうリクオ。とっても嬉しいわ」

両手を合わせ、表情を綻ばせた若菜は透明のビニールと赤いリボンで包装されたカーネーションを受け取る。

買ったのは昼だけど、選んだのは夜で。その花には二人分の感謝の気持ちが込められていた。

「このカーネーション、ピンク色なのね。…ふふっ、鯉伴さんと一緒だわ」

ほわりと嬉しそうに頬を染めて笑った若菜にリクオの口許も緩む。

《良かったみてぇだな昼》

(うん…)

ピンクにして正解だったみたいだ。

「さっ、お母さんは今日一日ゆっくりしててね」

主婦業は今日はお休み、とリクオは若菜の背を押してにっこりと笑った。



end



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