03


珱姫もつられて頬を淡く染める。

「…ありがとうリクオ。でも、たまにお祖母ちゃんて呼んで欲しいな」

柔らかな声音で紡がれた言葉に、昼は外していた視線をちらりと戻し、少し口ごもったあと照れた様に言った。

「おばあちゃん…?」

するとそれを聞いた珱姫はパッと花が綻ぶように、誰もが見惚れる笑みを溢した。

二人の微笑ましいやりとりを見ていた若菜もまた可憐な笑みを溢し、昼を中心に会話は続いていく。

「あらあら、リクオ。アイスが溶けかけてるわよ」

「あっ!」

「ここはアップルパイも美味しいんですよ。三人で分けて食べませんか?」

ほのぼのと穏やかな時は過ぎていく。

護衛として人間に化けてついてきた三羽鴉もすぐ側の席で月ノ夜堂看板メニューの和菓子と洋菓子をつついていた。

「お前ら…、遠慮って物を知らないのか」

黒羽丸はテーブルの上に並べられた和菓子と洋菓子の数に口許を引き吊らせる。

「だって兄貴の奢りなんて滅多にないじゃんか。それにここの和菓子あんま甘くねぇのもあるから結構いける」

「私はこれでも遠慮してるつもりだが…。トサ兄が頼みすぎなんじゃないか?」

甘さ控えめの和菓子はトサカ丸の胃の中に、ふわふわの洋菓子はささ美のお腹の中に消えていく。

「んぁ?俺よりささ美、お前そんなに食ってっと太…っ!?」

「うるさい。私はその分動くから問題ない」

モガッと口の中に甘ったるいタルトを突っ込まれ、トサカ丸は慌てて緑茶で流し込む。

「…割勘にするか」

「黒兄、今更それはずるい」

「男に二言はねぇよな兄貴」

黒羽丸は口の中に残る甘さを打ち消すように、苦めのコーヒーを口に含んだ。

(甘やかし過ぎたか…)



◇◆◇



それから三十分あまり月ノ夜堂で時を過ごし、珱姫と若菜が半分ずつお金を出しあって店を出る。

当然の様に三羽鴉も続き、家路へと向かう三人を少し離れた場から護衛する。

今時珍しい着物姿の三人は通行人の目を引き、加えて三人が三人とも違った愛らしい笑み浮かべ、話ながら歩いているせいで余計に目立っていた。

そうなると声をかけてくる不逞の輩もいるわけで…。

「可愛いねぇ、君たち」

「どう?暇なら俺達と遊ばない?」

「俺、この黒髪の子もろ好み!」

三羽鴉は護衛らしく、珱姫達と声をかけてきた男達の間にするりと滑り込むと、それぞれ三人を背に庇う。

「この御方はお前達が触れて良い方ではない。珱姫様、危ないのでお下がり下さい」

「若菜様も。…分不相応と言う言葉を知らないのか貴様等は。分かったら早々に立ち去れ」

「リクオ様は確かに可愛らしい顔立ちだが、どっからどうみても男だぜ。おめぇらどこに目ぇつけてやがんだ」

庇われた珱姫ははらはらと庇ってくれた黒羽丸の背を見つめ、若菜は己を守るように立ったささ美に心配そうに声をかける。

「ささ美ちゃんも女の子なんだから怪我はしないようにね」

「ありがとうございます。ですが、ご心配には及びません」

あきらかに絡まれている図に、野次馬が出来始める。

「トサカ…、別に僕は庇わなくても」

「何言ってんすか。リクオ様は三代目の大切なお方…」

「あぁ?なにさっきからごちゃごちゃ言ってんだ。無視してんじゃねぇぞ」

無視された形になった男達が声も低く、睨むような目をそれぞれ己の目の前に立つ三羽鴉に向けた。

「おっ、良く見るとコイツもえらい美人じゃねぇか。名前は?」

にやにやと、ささ美の正面に立つ男が口笛を吹く。

「ゲスに名乗る名などない」

それをささ美は冷ややかに一蹴し、どう処理すべきかと黒羽丸にちらりと視線を向けた。

だが、その必要はすぐに無くなった。




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