太陽の裏側(総珱+鯉若+夜昼+三羽鴉)
毎日がお祭りの様に賑やかで
笑みが絶えることなく過ぎていく
幸せの中に紛れ込んだほんの少しの寂しさ―…
□太陽の裏側□
開け放たれた窓からは明るい陽射し、そよりと吹く緩やかな風が入り込む。
「…お主等では華がない」
しかし、そんな軽やかな空気とは裏腹に、室内はどこか暗い。
「ふん。華が欲しけりゃその辺で摘んできたらどうだ?」
見るからに機嫌の悪い態度で、わざと先の台詞に検討違いな言葉を返す。
「まぁ、確かになぁ。こうして顔を突き合わせてても面白くはねぇな」
不機嫌な声に同意する声が続き、どうしたものかと畳の上に車座で座る男達は揃って眉間に皺を寄せた。
「なぁ親父。本当に聞いてねぇのか?」
その中の一人、胸の前で腕を組み、胡座をかいて座る鯉伴がぬらりひょんへ疑う様な眼差しで問い掛ける。
「知らん。知っておったら端からここには居らんわ」
どこから持ってきたのか脇息に右肘を付き、右手に持つ煙管をゆらゆらと揺らしてぬらりひょんはそう言い返す。
切れ長の金の瞳が、同じく金色を宿した鋭い眼(まなこ)へと向けられる。
「夜。お主が一番良く知っておるんじゃないのか?」
「あ?何でだよ。俺がお袋達の行き先なんて知るわけねぇだろ」
胡座をかいた膝の上で、とんとんとんと、この中で最年少の夜の指先が苛立つように動く。
「若菜達はともかく、リクオの行き先も本当に知らねぇのか?」
いささか驚いた顔で鯉伴に訪ねられ、夜は憮然とした表情を浮かべた。
「昼からは何も聞いてねぇ」
のらりくらりといつも姿を消すのは自分達の方だ。なのに、何故か今日に限って立場が逆転してしまっていた。
朝食を終えた後から、珱姫、若菜、昼の三人の姿がどこにも見当たらないのだ。
屋敷の中にいる妖怪達に聞いても、やはり朝食後から誰一人として三人の姿を見ていないと言う。
「…拐われたなんてことねぇよな?」
ポツリと溢して、夜はぬらりひょんを見る。
「ワシの家に乗り込む勇気のある奴なんぞおらんわ。そもそも、お珱がそう簡単に捕まるわけなかろうて」
「それならやっぱり三人は自分の足で屋敷を出てった可能性が高いな。…腑に落ちねぇのは何で一言、誰かに声かけてかねぇかってことだ」
鯉伴の導き出した答えに、夜は鯉伴へ視線を向ける。そしてぶつかった視線は同時に、流れるようにぬらりひょんへと移動した。
「親父」
「じじい」
「何じゃ揃って」
二人の真剣な眼差しを受けて、ぬらりひょんは怪訝な顔で二人を見返す。
「お袋を怒らせたりしてねぇよな?」
「珱姫を怒らせたりしてねぇよな?」
「………」
「………」
「………」
シンと空気の流れが止まったかの様に室内は静寂に包まれ、一瞬の停滞後、ぶわりと空気が破裂した。
「しとらんわ!言うに事欠いてお主等…」
ひやりと鋭く細められた眼光が二人を射抜く。だが、鯉伴はそれをものともせずに肩を竦めて言い募った。
「そう怒るなよ親父。念の為、確認しただけだろぉが」
「ハズレか。じゃぁ他に何だってんだ?俺は昼を怒らせるようなことした覚えはねぇぜ」
鯉伴も身に覚えがないと首を横に振る。
そしてまた振り出しに戻るわけだが…。
それをカンッと甲高い音が遮った。
「行くぞ」
煙管の火を灰吹きの中へ落としたぬらりひょんが一言そう告げて立ち上がる。
「あてはあるのか?」
それに倣って腰を上げた鯉伴が右手を懐に差し込んで聞き返す。
「幾つか心当たりはあるが、もしあやつらがワシらから逃げてるとなると無いに等しい」
「けど、行くんだろ?こんな所でじっとしててもしょうがねぇしな」
すっと立ち上がった夜がぬらりひょんの言葉の後を継ぎ、三人は程なくして屋敷を後にした。
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