夕涼み(若菜+総大将)
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陽が西へと傾きだす
一筋の飛行機雲が伸び
薄青と茜色の空を横切る―…
□夕涼み□
チリーンと涼しげな音を立て、軒先に吊るした風鈴が鳴る。
可愛らしい金魚の描かれた硝子の風鈴は、六月に入って若菜が吊るした物だ。
「今日も暑かったわねぇ」
ふぅと息を吐いて、明日も暑くなりそうだわと、飛行機雲の伸びる空を見上げる。
縁側でしばらくゆっくりとしていた若菜に、廊下の右手から声が掛けられた。
「おや、若菜さん。こんなところにおったのか」
掛けられた声に振り向けばそこにはぬらりひょんが居て、のんびりとこちらに向かって歩いて来る所だった。
「お義父さん。…何か私に御用でしたか?」
柔らかく表情を緩めて聞けば、ぬらりひょんは良い良いと首を横に振って若菜の隣に腰を下ろす。
「あやつらは若菜さんに頼りすぎじゃ。放っておけばよい。…おぉ、良い風じゃな」
きょとんと小首を傾げた若菜の耳に、チリーンとまた涼しげな音が届く。
「えぇ…、夕方になって少し涼しくなりましたね」
さわさわと揺れる桜の葉。その根元で虫が鳴く。
「明日も暑くなりそうじゃのぅ」
「本当に。皆には精のつく物を食べてもらわなくちゃ」
あれこれと食事に気を遣う若菜に、ぬらりひょんはふと口許を緩めて笑う。
「若菜さんが居らねば皆倒れてしまいそうじゃな」
「そんな…」
「いや、謙遜せんでもワシもその内の一人じゃ。若菜さんには皆助けられておる」
困った様な照れた様な笑みを浮かべた若菜に、ぬらりひょんはわざと軽い口調で言葉を重ねた。
そしてまた涼やかな音色が二人の頭上でチリーンと鳴った。
□end□
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