特別な存在(夜昼)


その名を知るのは一人だけ
その名を呼ぶのも一人だけ
お前だけが俺の特別―…



□特別な存在□



《俺の名を呼べ》

闇の中にあって尚、その人は消えること無く存在感に溢れていた。切れながの金の鋭い瞳に銀の髪。背も高く、僕とは一回りも違う体格。彼こそが数多の妖怪を率いるのには相応しい。僕とはまったく違う。

《俺の名を呼べ、昼の俺。お前が望むなら力を貸してやる》

淡く光る桜の花弁が頬を掠め、僕は桜の木を見上げた。

そこに腰かけ、見下ろす君の名を初めて呼んだのは小学生の時だった。

「夜の僕、…二人を助けたいんだ。でも僕だけの力じゃ無理で」

《昼。それがお前の願いなら俺が叶えてやる》

とんっ、と重力を感じさせない身軽さで桜の木から飛び降りた夜は昼の頭をくしゃりと優しく撫でた。

《お前はここで安心して待ってろ。すぐに終わらせてくる》

「ごめん」

《違うだろ》

「ありがとう」

ふっと夜は闇に溶けるように、温もりだけを残して消えた。

僕は桜の木の根元に座り、夜が帰ってくるのを待つ。

ここは夜と僕が唯一会える、触れ合えて、会話を交わせる場所。

リクオの精神世界。

誰も知らない。
昼と夜が別の存在だと言うことを。
一つの体に二つの魂。
人間の僕と妖怪の夜。
どちらが欠けてもいけない。これは二人だけの秘密。

誰にも邪魔はされたくないから。

《昼。お前の願い通り、ねずみ狩りは終わったぜ》

ふわりと唐突に現れ、座り込んでいた僕の側に夜は現れる。

「お帰り。怪我はしてない?」

《するかよ。お前の体にゃ指一本触れさせてねぇ》

「ん、夜の体でもあるんだから。大切にしてね」

腕を掴まれて、僕は逆らうこと無く立ち上がった。そして、すっぽりと夜の腕に抱き締められる。

《昼》

これは夜の癖だ。僕の無事を確かめる為に、出入りがある度に行われる。

「僕は大丈夫だよ。夜が護ってくれるから」

僕も夜の背に腕を回して、その広い胸に頬を押し付けた。

《お前は無事でなくちゃならねぇ。でないと俺は何をするか分からねぇからな》

栗色の髪に鼻先を埋め、夜はひっそりと深い声で言う。

「僕だって君に何かあったらきっと冷静じゃいられない」

だから、お互い様だよ。
と、僕はそれに苦笑しながら応えた。



end



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