甘くて苦い(若菜+夜昼)
ピンクの可愛らしいリボンにシンプルな包装。
その中には甘さ控えめ、手作りのチョコレート。
変わらぬ想いを貴方へ―…
□甘くて苦い□
「おはようリクオ。今日は早いのね」
「おはよう、お母さん。今日は日直なんだ」
朝早くから動いている若菜に笑顔で応えてリクオは席に付く。
「あら、そうなの」
早起きの理由を知って若菜はすぐにご飯をよそい、リクオが食べ始めたのを見てから一旦席を外した。
「ごちそうさまでした。じゃ、行ってきます!」
「あっ、ちょっと待ってリクオ」
はい、これと戻ってきた若菜の手には綺麗に包装された小さな箱が。
「ん…?何これ?」
「あら、忘れてるの?今日はバレンタインでしょう?」
「あっ!そうだっけ、…ありがとう」
すっかり忘れていたリクオは気恥ずかしそうに笑って若菜からのチョコを貰った。
「若〜!私からもハッピーバレンタインです!」
護衛としてついてきてくれるつららからも玄関先で渡され、学校でも、良い奴認定されているリクオはその日それなりの数のチョコを渡された。
朝には無かった紙袋を右手に提げ、学校から帰って来たリクオは、自室に向かう途中で若菜の姿を見掛ける。
「ただい―…」
けれど、声を掛けようとしてリクオは直ぐに口を閉ざした。
何故なら、…若菜が仏壇の前に座り、飾られた写真にふんわりと微笑みかけていたから。
「貴方の好きな甘さ控えめのチョコ。今年は見た目も良くなったのよ?」
ピンクの可愛らしいリボン。綺麗に包装された箱を線香立ての側にソッと供えて。
…二人の邪魔しちゃ悪いよね。
リクオは若菜に気付かれる前に静かにその場を離れた。
◇◆◇
そして、リクオも特別な時を大切な人と刻む。
「どう?」
《甘い…》
ひらりと舞う桜を、濡れ縁に座って眺めながら、夜は昼から差し出されたチョコを一口かじって呟く。
「甘いのダメだった?」
そういえば夜が甘いものを食べている姿を見たことがない、と昼は伺う様に夜を見上げた。
《ダメってわけじゃねぇが、進んで口にしようとは思わねぇな》
「そっか」
《だから後はお前が食っていいぞ》
二人の間には若菜がリクオに、とくれたバレンタインのチョコ。
若菜は知らないだろうが、リクオは夜と昼でリクオなのだ。だから昼が夜にも、と思ってここへ持って来た。
「僕も忘れてなかったら夜に用意したのになぁ」
《別に構わねぇよ。お前がいればな》
ゆるりと心の底からそう思っていると伝わる笑みに、昼は薄く頬を染める。
「でも、来年はちゃんと用意しておくから…あんまり甘くないやつ」
「…分かった。楽しみにしてるぜ」
自分に何かあげたいと思ってくれる昼の気持ち。
それだけでも十分嬉しいと夜は思ったが、昼のその想いに甘えて夜はふっと瞳を細めて笑い返した。
□end□
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