休息(夜昼)
ほっと自然に和らぐ心、緩む頬
心地良いぬくもりに包まれ体から力が抜ける
夢現に"おやすみ"と囁く優しい音を聞いた―…
□休息□
はらりと目の前で舞う桜を追って視線を落とせば、垂れ桜の幹に背を預け眠る昼の姿。
《声が聞こえねぇと思ったら…》
此処へ来て、いつもなら真っ先に俺を呼ぶその声が。余程疲れていたのか精神も眠ったまま此処へ来てしまったようだ。
やれやれと夜は肩を竦め、昼の正面に立つ。
《頑張り過ぎなんだよおめぇは》
昼間は学校、帰ってきてからは組のこと。何でも一生懸命取り組む昼の姿を見るのは嫌いじゃねぇ。むしろ、生き生きと輝いていて好きだ。…けど、たまには休息も必要だろう。
夜は羽織っていた羽織を脱ぎ、膝を折ると、昼の体に掛けてやる。
《こうなる前に俺を呼べよ昼》
さらりと、眠る昼の前髪を掻き上げ唇を落とす。
今だ規則正しい寝息を立てている昼の隣に腰を下ろし、夜は昼の横顔を見つめた。
《聞こえてんだろ?》
ぴくりと昼の瞼が震える。
《耳が赤くなってる》
すっと伸ばされた指先が、熱を帯びて赤く染まった昼の耳に触れ、その輪郭をなぞる。
「ん……」
ゆっくりと持ち上げられた瞼の下から茶色の瞳が現れ、頬にまで降りてきた夜の手に、自分の手を重ねた。
そして、昼は罰が悪そうに夜を見つめ返す。
「…気付いてたんだ」
《おめぇのことだ。当然だろ》
「じゃぁ、何で僕が寝たフリしたかも?」
《俺に怒られると思ったんだろ?》
無理ばっかすんなって。
図星なのか昼は少し瞼を臥せて、うんと小さな声で頷く。
《ったく、分かってるなら気をつけろ》
「ん。でも、夜にばっかり負担はかけたく…」
《昼》
こつり、と額を合わせて夜は昼の言葉を遮る。
両手で昼の頬を包み、視線を絡めて夜は続けた。
《負担も何もねぇだろ。俺達は二人で一人なんだ。半分ずつ分け合ってやりゃ良い》
「けど実際は夜にばっかり…」
僕は人間で、陽が落ちてからはあまり役に立てないから。
《それで良いんだよ。妖怪の事は俺に、人間の事はおめぇに任せたって言ったろ?》
おめぇは良くやってる。
「そうかな…?」
自信がないのかゆらりと揺れた瞳を覗き、夜は優しく昼を己の内に包む。
《あぁ…。だから無理はするな》
昼の頬に添えていた手を後頭部に回し、夜は自身の胸元に引き寄せる。逆らわず凭れかかる様に力を抜いた昼を抱き締め、その髪を梳いた。
《お前は良くやってる。だから今は少し休め。…起きるまで俺はここにいるから》
「う…ん…」
夜のぬくもりに包まれた途端、瞼が下りてきて昼の意識が遠退く。
《大丈夫だ。…ゆっくり休め》
ふわっと瞼に何かが触れる感触を最後に昼は眠りに落ちた。
《…おやすみ、昼》
はらりと静かに舞う花弁が空気に溶ける。
胸に凭れかかり眠る昼を羽織の上から包み込む様に抱き締め、飽きることなく優しい眼差しで見つめる夜がそこにはいた。
□end□
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