02
気付けばリクオはあの場所に立っていた。
鯉伴と最後に歩いた、桜の咲く…
「ぁ…、お父さん…」
周囲に視線を巡らせて、リクオはそこに鯉伴の姿を見つけた。
そして、ビデオを再生するように再現される夢。
「あぶないっ、お父さん!」
しかし、その声が届くことはなく。煌めく白刃が鯉伴の胸へと吸い込まれ―…
スッとリクオの視界は闇に遮られた。
《見るな……》
「お…と…うさんが…」
《…あぁ》
静かな声が応える。
目の上に置かれた手とは逆の手が、背後からリクオを優しく包む。
「ゆるさない…僕が…」
《…ダメだ、昼。…闇に呑まれるな》
凛とした声音がリクオの決意を揺らす。
「でもっ、…お父さんが!…お母さんが泣いて…」
悲しみを堪えるよう、リクオは小さな拳を握って言葉を紡ぐ。堪えきれなかった涙が頬を伝って落ちた。
《昼…》
リクオの体に回された腕に力が入る。
《…その心は一旦俺が預かっておく。…だから、今は何も考えずゆっくり眠れ》
すぅっと、塞がれていた視界が明るさを取り戻す。リクオを包んでいた温もりが薄れ、
「ぁ……」
心に掬っていた闇が消えた。
「僕は…いま、なにを…?」
ふと呟き、リクオは何となく後ろを振り返る。だが、そこには何もない。
「………?」
その事実にリクオは首を傾げ、…なんだか泣きたくなった。
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