シバきに愛をください!(笠黄)

恐れ多くも【第二回笠黄創作企画】様に参加させて頂きました!
お題「シバきに愛をください!」



夏も終わりに近くなってきたとはいえ、日中はまだまだ暑い日が続く。窓が開け放たれているとはいえ、今日も体育館の中は蒸す様な熱が籠っていた。そんなある日の放課後…。


「黄瀬ぇ!てめぇ、何やってんだ!」

言葉と共に繰り出された華麗な蹴りが黄瀬の背中を直撃する。
背中に走った痛みに一瞬息が詰まり、前のめりに転倒しかけたが、そこは何とか意地で踏ん張った。手から離れたバスケットボールがダンダン…と体育館の床の上を跳ねながら転がっていく。

「〜〜っ、いってぇ」

黄瀬はその場にしゃがみこみ、自慢の長い手で蹴られた背中を擦る。視界の中に見慣れた黒いレッグスリーブとバスケットシューズの組合わせが入り込んだ。

「ちょっと目を離した隙にこれだ。休憩だっっつただろうが!」

「だって…」

「だって、じゃねぇ!休憩の時はちゃんと休憩して水分補給しろ!何度同じこと言わせんだ、シバくぞ!」

「…もうシバいてるじゃないっスか」

「ああ?何か言ったか?」

「センパイはいつもそうっスよね!…本当はセンパイ、俺が嫌いなんスよね!?」

「はぁ?いきなり何言ってんだ?どうしてそうなる」

体育館の真ん中でしゃがみこんだまま黄瀬が笠松を見上げれば、不可解な顔をした笠松が黄瀬を見下ろしていた。

…なんで、分からないんスか!

その事に更にむっとして黄瀬は笠松に反抗する。

「だってセンパイ、いつも俺ばっかりシバくじゃないっスか!なんでっスか!酷いっス!……俺はこんなにセンパイが好きなのにっ!」

わぁっと大袈裟に顔を両手で覆い、黄瀬は泣き真似をする。いや、半ば本気だ。
俺はセンパイの可愛い恋人じゃないの!?なのに、センパイときたら!恋人関係になっても平気で手や足を出してくるし、普通もっと甘い雰囲気になっても良いんじゃないっスか!

「センパイのばか!恋愛音痴!」

「あぁ?誰が何だって?」

指の隙間から笠松を睨み上げてから、ぷいと顔を横に背ける。
すっかり拗ねモードに入ってしまった黄瀬に笠松は溜め息を吐く。

…言葉が足りなかったか。

「あのな、俺はお前が心配だから言ってんだよ。お前が焦る気持ちも分かるけどな、インハイで痛めた足のこともあるし、こんな暑い中水分補給もしねぇでやってたら今に倒れちまう。そりゃ俺はお前みたいに素直な性格じゃねぇから言葉よりも直ぐに手や足が出ちまうけど…」

がりがりと汗で湿った短い黒髪を右手で掻きながら、ほんの少し顔を赤くした笠松は黄瀬の正面にしゃがみこむ。

「愛は籠ってんだよ」

ぴくりと肩を揺らして、ちらちらと笠松の方を気にしだした黄瀬に笠松はゆるりと双眸を緩める。

「お前が好きだから、心配だから、つい厳しくしちまう。嫌いだったらこんなことしねぇ」

「…じゃ、じゃぁ…この間、俺が女の子達に手ぇ振ってた時、いきなりシバいてきたのは…?」

「あれは…でも、半分はお前も悪い。部活中に何してんだって怒ったけど、本当は嫉妬も混じってた」

そっぽを向いていた顔が笠松に向き直り、そろそろと両手が顔から下ろされる。

「じゃぁじゃぁ、昨日の帰り道、手を繋ごうとしたらシバかれたのは何でなんスか?」

「ん、あれ?お前、気付いてなかったのか?俺ら以外にも人がいたからだ。お前モデルだし、妙な噂立てられたら困るだろ」

「……俺の為っスか?」

「他になにがある?」

外されかけた両手が再び顔を覆う。
さらさらの黄色い髪の間から覗く耳が赤く染まっていく。

「おい、黄瀬?」

確かに笠松の言う通り、笠松のシバきにはいつだって黄瀬への愛が籠っていた。

「すっ…スンマセン。さっきのは嘘っス。俺、ちゃんとセンパイに、好かれてるっス」

「当たり前だろ。でも、俺も少し反省したわ」

ぽんと黄色い頭に笠松の手が乗せられ、くしゃくしゃと優しく掻き交ぜられる。

「今度からはシバいちまった分だけ、うんと優しくする。それで許してくれ」

「……良いっスよ。俺もうんと甘えるっスから」

ふへへと嬉しげに笑み崩れた顔が両手の下から現れ、笠松はそれに凛とした声でおぅと返事を一つ返した。



そしてその日は何故か暑さにやられたと言う部員が続出し、部活が終わった後、笠松と黄瀬は森山達から「これ以上、体育館内を暑くしないでくれ!」とよく分からない苦情を受け、二人して顔を見合わせた。



end

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