じつのところ(笠黄/黄笠+灰)


※CP要素は薄く、笠黄にするか黄笠にするか表記を迷ったあげく両方表記。
※捏造有り。黄瀬と灰崎は幼馴染み。笠松とも幼い頃から知り合い。




ウインターカップも終わり、あっという間に年が明けて正月。生家から離れ、一人暮らしをしていた面々もこの日ばかりはそれぞれの家へと帰省していた。
そしてその中には黄瀬 涼太と灰崎 祥吾
も含まれていた。

マフラーにコートと防寒対策をバッチリして自宅を出た二人は百メートルもいかないうちに足を止めた。

「げっ、ショーゴくん」

「うげっ、リョータ。正月早々嫌な顔見ちまったぜ」

「それはこっちの台詞っスよ」

互いに嫌なそうな顔を隠しもせずに道端で睨み合う。

「まさか、お前もあの人ん家行く気じゃねぇだろな。戻ってきてまで、犬かお前は」

「そういうショーゴくんこそ。ウインターカップで青峰っちに殴られて、その後あの人にもシバかれた癖に良く顔を出せるもんっスねぇ」

「んだと、てめぇ?」

「はっ、何スか?」

さすがに自宅近くの道端なのでお互い手はでないが、顔を近付けて火花を散らす。纏う気配はピリピリと尖り、もはや一触即発状態だった。

−−だが突然、そこへ強烈な拳が二人の横っ腹に突き入れられる。

「ぐっ…!?」

「うっ…!?」

「道端で何してやがる!馬鹿どもがっ!」

呻き声を上げて、横っ腹を手で押さえた二人は睨むように視線を横にスライドさせて、声の主に目を見開く。

「っ、…ユキオさん!」

「…っ、ユキオ!」

「笠松センパイだろうが、黄瀬!灰崎、てめぇも呼び捨てとは良い度胸だな?シバきたりなかったか?」

そこに立っていた笠松は二人に見せつけるように、ぽきりと指を鳴らし、再び拳を握ってみせる。
その威力を今、身を持って体感させられた二人は顔を青ざめさせると慌てて笠松から距離をとって、言い直す。

「か、笠松センパイ…」

「……笠松、さん」

「ん、よし」

満足げに頷き拳を解いた笠松に、二人は肩に入っていた力を抜く。
いってぇ、と横っ腹を擦る灰崎と、あれ?あんまり痛くはなかったなと首を傾げる黄瀬に笠松は構わずに口を開く。

「で、お前らは道端で何してんだ」

「俺は今から笠松センパイん家に挨拶に行こうと思って」

「あー、俺もだよ。親が行って来いってうるせぇから仕方なくな」

「だったら行かなきゃ良いじゃないっスか。…お邪魔虫め!」

「うるせぇな。行かなかったら行かなかったでうるせぇんだよ。…この犬が!」

「あぁ…ショーゴくん家のお母さんとお兄さん、笠松センパイのこと気に入ってるっスもんね。こんな不良息子に良くしてくれてって」

「はぁ?それを言うならお前だろ。笠松さんが高校に入ると同時に家出ちまって、中学ん時グレてたのは誰だよ。リョータは笠松さんがいないとダメね、なんて母親と姉貴に言われてたのはてめぇの方だろ」

「はぁ?」

「ぁあ?」

「ったく…だから、それを止めろって言ってんだろ!涼太、祥吾!お前らは会う度、会う度、喧嘩売らなきゃ気が済まねぇのか!」

ぐわしっと笠松に後頭部を掴まれ、黄瀬と灰崎は突き合わせていた額同士を思いきりガツンとぶつけられる。

「い〜〜っ!?」

今度は黄瀬にも手加減なしで、黄瀬と灰崎は良い音を出してぶつかった額を手で押さえてその場にしゃがみこむ。

「お前らなぁ!…涼太!お前は足が完治したとはいえ、調子乗ってあんまり出歩くな!」

「……うっス」

「んで、祥吾!お前は涼太に喧嘩売る前に、涼太に言うことがあんだろ!」

「………くそっ、俺が…悪かったです」

「ん。もうくだらねぇことで喧嘩すんじゃねぇぞ。特に祥吾。涼太の足の件、やって良いことと悪いことぐらいわかんだろ」

しゃがみこんで笠松より低い位置にきた二人の頭を笠松はぐしゃぐしゃと両手で掻きまぜ、言い聞かせるように言う。

「それとあの、中学の時の話。女がどうのこうの…。今更とやかく言うつもりはねぇけど、お前ら女と付き合うなら最低限の節度を持って付き合え」

何故か評判の良くないコーンロウから実家に戻って髪型を元に戻していた灰崎は笠松に髪の毛をぐしゃぐしゃにされながら、同じくさらっさらの髪を鳥の巣にされて喜んでいる黄瀬へと目を向ける。
常々お互い気に食わないと思っている相手だが、そこは幼馴染み。
目だけで会話ができる位には意思疏通が可能だった。

笠松の言う、中学の時の話。
灰崎が試合中に黄瀬を挑発するのに口にした『黄瀬の女を灰崎が横取りして、ヤリ捨てた』というその話の真相は実はちょっと違った。

(おい、なんか、ユキオ勘違いしてんぞ)

(それはショーゴくんのせいっしょ!俺はまだ誰とも付き合ったことなんかないっスよ!キスだって!確かにあの子には思わせ振りなことはしたっスけど、俺はショーゴくんと違って清廉潔白の身っス!)

(まぁ、それを俺が横からかっさらったのは事実だけどな。あんな尻軽女がユキオに惚れるなんざ一億年はえぇ)

(そうっスよね!ユキオさんは俺のっス!)

(まだてめぇのじゃねぇだろうが、リョータ。またユキオが妙な女に目を付けられる前にさっさと告白しろ、ヘタレ)

(なっ、自分だって虹村センパ…)

「おい、聞いてんのかお前ら?」

「聞いてるっス!」

「聞いてんよ」

いい加減うぜぇ、と灰崎が頭の上に乗っていた笠松の手を振り払い立ち上がる。
それを合図に笠松は黄瀬の頭に乗せていた手も離す。
黄瀬は立ち上がりながら笠松の手を名残惜しそうに目で追って、ちらりと灰崎を恨みがましく睨み付けた。
灰崎は黄瀬にフンと鼻で笑い返し、笠松と黄瀬に背を向ける。

「ンじゃぁな。笠松さんには会ったしもういいだろ」

目的は果たしたと灰崎は歩き出す。

「おい、祥吾。お袋さんと兄貴に宜しく言っといてくれ」

背中にかけられた笠松の声に灰崎はひらひらと片手を振って、本当に立ち去ってしまう。
その背中を眺めていた黄瀬は心の中で、ヘタレはショーゴくんもだろと言い捨てる。

(こんなとこで油売ってないで、ショーゴくんこそ早く虹村センパイに告白したらどうなんスか)

帝光中バスケ部の元キャプテン虹村は一度渡米したが、今はもう日本に帰国していた。桃井からの情報を黄瀬は灰崎に横流ししてやったというのに。
はぁ…とため息を吐いた黄瀬を笠松が振り返る。

「お前は家来るか?」

「もちろん行くっス。センパイん家でだらだらさせて下さい!家に居ると姉ちゃん達も帰って来てるから休まらなくて」

「あぁ…、お前ん家の姉さん達パワフルだもんな」

「家でだらだらなんかしてたら買い物の荷物持ちに借り出されるのがオチっスよ」

笠松の隣に並んで黄瀬は歩き出す。
そこでふと笠松を見下ろした黄瀬は笠松が手ぶらなことに気付いて首を傾げた。

「そういえばセンパイは何でここに?どっか出かける途中とか…」

隣からの視線を笠松は見上げ、さも当たり前のことの様にさらりと返す。

「お前を迎えに行く途中だったんだよ」

その前に黄瀬と灰崎を道端で発見した。
笠松の家から黄瀬家と灰崎家は共に徒歩五分圏内にある。

「え、センパイ迎えに来てくれるつもりだったんスか」

「受験勉強の息抜きにな」

「それでも嬉しいっス!」

「あんまり構ってやれねぇかもしれねぇけど、病み上がりでバスケしに行かれるより目の届く所に置いておきてぇんだよ」

だからどっか出かけるより、俺の部屋でごろごろしてろ。と、黄瀬にとっては願ってもない誘いを笠松から持ちかけられた。
当然黄瀬はその誘いに一も二もなく頷き返す。

ほどなくして辿り着いた笠松家の門を笠松の後に続いてくぐった黄瀬は、お邪魔しまーすと笑顔を溢して玄関扉の中に姿を消した。




end


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