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その二、敵情視察:黄瀬side
視線も鋭く黄瀬は、体育館で基礎練習を行うバスケ部の部員達を眺めていた。
笠松の紹介で黄瀬は今、体育館内に置かれたパイプ椅子に座り監督と並んで大学のバスケ部を見学させてもらっていた。
主将ではない一年生の、笠松の姿を見るのは新鮮でこれが中々に興味をそそられる。黄瀬が笠松に出会った時から笠松は、キャプテンシー溢れる海常の主将であった。
「……でも、あのセンパイちょっと笠松センパイに構いすぎじゃないっスかね」
笠松センパイがいくら凄い選手だからって。
視線の先ではバスケ部の主将が笠松に何か話しかけている。笠松もそれに無愛想とは言わないが、律儀に対応していた。
それは仕方がないことだと黄瀬だって頭では分かっている。今の黄瀬と笠松が活躍する舞台は違うのだと。それでも見ていて面白くはない。
練習の指導を行っているコーチが基礎練習から次は紅白戦を行うと言い、チーム調整の為か主将が呼び寄せられる。その間、五分間の休憩が主将から言い渡された。
主将から解放された笠松が一度黄瀬の元に戻ろうしたその時、ジャージを身に付け、ふんわりとした髪を後ろで一つに束ねた小柄な女性がひょっこりと笠松の目の前に現れた。
「タオルどうぞ、笠松くん」
「あ、いや……俺は…」
笠松の視線がふらりと宙をさ迷う。
笠松にタオルを差し出した彼女はバスケ部にいる三人の女マネージャーの内の一人だ。笠松の話に寄れば同期生らしい。
苦手な異性を目の前に笠松はぎこちないながらも何とか断りの言葉を紡ぐ。
見る人が見れば、笠松センパイは良い男だ。背だって高いし、実直で、さっぱりとした男前だ。頼りがいだってある。そんな格好良いセンパイに惚れない人なんていないだろう。
黄瀬は目の前の光景にじりじりと胸を焦がした。傍目に見れば小柄な女マネージャーと笠松はお似合いに見える。何より男の自分よりも自然の摂理として理に叶っている。でも、そんなことはもう既に何回も考えた。考えて、考えて、それでも譲れないのだと!
黄瀬は隣に立っていた監督に向けて愛想良くにこりと笑って声をかけた。
「あの、監督…」
そして、五分間の休憩明け、黄瀬は笠松と同じコートに立つ。帰りにでも笠松をストバスに誘おうと予めカバンに詰めていたTシャツとハーフパンツに着替え、バッシュを履く。もちろんビブスは笠松と同じ青色だ。
「お前…、何したんだよ」
柔軟でしっかり身体を解して、コートの中に入ってきた黄瀬にいつもの調子を取り戻した笠松が声をかける。それに黄瀬は口端を吊り上げて、対戦相手である主将のチームと、視界の端で三人の女マネージャーをちらりと見た。
「観てたら俺も笠松センパイと久し振りにバスケがしたいなぁって思って。だから監督にちょーっと俺と笠松センパイのコンビネーション、間近で見て見たくないっスか?って言ってみただけっス」
何せ監督はキセキの世代贔屓みたいだから。使えるものは何でも使うっス!この際手段は選んでられない。
笠松は呆れたような顔をしつつも、久々に同じコートに立った黄瀬の姿に満更でも無さそうな顔をした。
「そう言うことでよろしくっス、笠松センパイ!」
「ったく、お前は…しょうがねぇな」
笠松に同じチームのメンバーを紹介してもらい黄瀬は後輩らしく、軽く頭を下げた。この辺はほとんど笠松の教育の賜物だ。
チームを組んだ人はほとんどが二年生か三年生で、礼儀正しい黄瀬の姿を見た彼らは「キセキの世代で、モデルもやってるしもっと生意気な奴だと思ってた」と口々に言った。それに黄瀬は苦笑して、笠松は緩く笑った。
とりあえず笠松センパイのセンパイ達には好印象を持って貰えたわけだが…。
主将はまぁともかくとして(バスケ部員としては主将に気に入られていた方が良いんだろうし) 、黄瀬は自分の脅威になり得る女マネージャーの意識を如何にして笠松から引き離すか、自分の容姿を最大限の武器として作戦に練り込みながらティップオフの時を待つ。
笠松センパイは俺がバスケをしている時が一番格好良いと言ってくれたし、この作戦がもし失敗したとしてもまた次の手を考えればいいだけのことっス。
そんで、笠松センパイは誰にも渡さないっス!
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