時と場所を選ばず(堀鹿+笠黄)

※両片想いのバカップル二組
野崎くん:堀(大1)×鹿島(高3)
黒バス:笠松(大1)×黄瀬(高2)
…いつまでも、のちょっとした続き



テーブルの上に置いたカツ丼を笠松は黙々と食べる。その隣ではパスタをフォークに巻き付けた黄瀬が優雅に見える動作でパスタを口に運ぶ。
そんな二人の向かい側では、日替わり定食を頼んだ堀がハンバーグを箸で割っている。その隣ではご飯からサラダに箸を伸ばして鹿島が千切りにされたキャベツとニンジン、キュウリをしゃくしゃくと食べていた。

「ん、大学の学食って安いわりに結構美味いんスね」

「だろ?バカに出来ねぇだろ」

「種類も豊富だし、別の館に行けばまた違うものが食えるぜ」

「デザートも結構あるんですね」

四人は食べながら合間に会話を交わす。
…そう此処は笠松と堀が通う大学の四号館一階、常波(とこなみ)食堂だ。常波食堂では和洋折衷様々な料理が学生の懐には優しい値段で提供されている。ちなみに常波というのは食堂を開いた創業者の名前から来ているらしい。

サラダを食べ終えた鹿島はメインの唐揚げを箸で摘まみ、ちらりと隣の堀に視線を流す。

「ねぇ、先輩。唐揚げ一個とハンバーグ一欠け、交換しませんか?」

交渉を持ちかけられた堀はしょうがねぇなと息を吐いて、自分の皿の上から比較的大きなハンバーグの欠片を箸で摘まみ、「ほら」とそのまま鹿島にハンバーグを摘まんだ箸を向けた。
箸を向けられた鹿島は唐揚げを堀の皿にころりと落として、あーっと口を開けて差し出されたハンバーグをパクリと口に含んだ。

「センパイ…」

「俺はやらねぇぞ。第一、昼飯減ったら午後からの部活が厳しい」

どこか羨ましげな黄瀬の視線に笠松はきっぱりと拒否の姿勢をとり、残り少ないカツ丼を頬張る。それでも横目でちらりと黄瀬を見た笠松は、しょぼんとしたその姿に左手を伸ばし、「今はこれで我慢しとけ」とわしゃわしゃと黄瀬の頭を撫でた。

笠松さんと黄瀬くん、本当仲良いなぁとハンバーグを貰った鹿島はご機嫌な様子でその光景を眺める。交換で手に入れた唐揚げを咀嚼して、残りがポテトサラダだけになった堀が箸を止めて口を開く。

「で、笠松は午後から部活があるんだろ?その間、黄瀬はどうするんだ?」

「センパイが部活してる姿を見学してるっス」

黄瀬が通う海常高校は本日、体育祭の振替で平日にも関わらず休みだった。また、体育祭の後なのでさすがにバスケ部も休みとなっており、モデルの仕事は午前中に済ませてきた。なので黄瀬は前々から興味のあった笠松が所属する大学のバスケ部を覗きに来たのだ。
その旨は前以て笠松には電話で伝えてある。

「監督とコーチと主将にはもう話は通してあるから大丈夫だ。あのキセキの世代がうちに見学に来るのかって逆に喜んでたぜ」

「今は海常の黄瀬っスよ」

その台詞に箸を置いた笠松は、眉を寄せた黄瀬を見て、嬉しそうに苦笑を浮かべた。

「それで、お前は鹿島と何処か行くのか?」

笠松と黄瀬と同じように堀も大学の門前で鹿島と待ち合わせをしていた。それを知って、どうせだから一緒に学食で昼飯を食べるかという流れになり、今に至っているわけだが。この後の行動はもとから別々の予定だ。

「おー、コイツが大学の中を見て見たいって言うから案内出来る所だけ、案内してやろうと思ってな」

「大学の中ってどんな風になってるのか、気になるじゃないですか」

主に堀が通っている大学がと鹿島の場合、後に付くけれど。大学の中が気になっているのは嘘じゃない。
ちなみに鹿島の通う高校は今日は創立記念日で休みだ。演劇部も例に漏れず今日は休みだ。ただし大学生の堀は、三時限目に入っていた講義は休講になったが、3時10分からある四時限目の講義には出席しなければならないので、鹿島に付き合えるのはそれまでだ。鹿島もそれは承知している。

「俺は四限に講義が入ってるから、案内できるのは3時までだけどな」

食堂に掛けられた壁掛け時計を見ればちょうど13時40分を過ぎたところだった。
笠松と堀がそれぞれとっている授業が終わったのが12時35分で、それから後輩と待ち合わせ場所で落ち合い、一番近いこの食堂へ来てから四十分は経っていた。

「そろそろ行くか、鹿島。案内出来る時間がなくなる」

「講義の時間までって、鹿島はその後どうするんだ?」

堀に促され、席を立った鹿島はトレイを手に笠松へと答える。

「本当は講義が終わるのを待って堀ちゃん先輩と帰ろうと思ってたんですけど、堀ちゃん先輩が駄目だって言うから仕方なく帰ります」

なんとも恨みがましそうな口調に黄瀬がそれならと提案をする。

「堀さんが講義を受けてる間、鹿島さんもバスケ部に来たらいいんじゃないっスか?」

鹿島が堀の通う大学が気になっているのと同じく黄瀬も笠松が所属しているバスケ部が気になっていたのだ。興味の引かれるものは違えど根本で思っていること、考えていることはどちらも同じだ。
そして先輩と一緒に帰り道を歩きたいと思う気持ちも黄瀬にはわかる。一緒に帰ればその分長く一緒にいられる。

「ね、センパイ。もし邪魔になるようなら途中から俺も鹿島さんと一緒に、センパイの部活と堀さんの講義が終わるまで、その辺で時間潰して待ってるから、それでもいいっスか?」

黄瀬のお願いに笠松は堀を見る。
堀は鹿島の顔を見て、一つ頷く。
一人で待たせるよりは良いらしい。
笠松の視線が黄瀬へと戻ってくる。

「いいぜ。ただ、監督とコーチが駄目だって言ったら外で待ってもらうことになるぞ」

鹿島も、と向けられた笠松の視線に鹿島は瞳を輝かせる。黄瀬の見学の許可はとってあるが鹿島の許可まではないからな。

「それでもいいです!ありがとうございます!黄瀬くんもありがと!」

「別にいいっスよ」

わいわいと喜ぶ二人の横で笠松と堀は落ち合う時間と場所を決める。
そして、堀と鹿島、笠松と黄瀬は四号館の食堂の前で一度別れた。

「じゃ、また後でな」

「おー、鹿島のこと頼むぜ」

四人が座っていたテーブル席の周りには終始ふわふわと甘ったるい空気が漂っていた。



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