「君はいつも幸せそうだね。」
目の前で嬉しそうにアイスを頬張る姿を見ていたら思わず口に出た言葉。
それに対してさして気にしていない様子で目の前の彼女は「うん。」と答えた。
また幸せそうな微笑み。
「どうして、そんなに笑っていられるんだい?」
宇宙人のフリをして父さんに利用されたのに。
それによって受けた心的外傷(トラウマ)は並々ならないものだろうに。
「笑ってるとね、幸せって向こうから来てくれるんだって。」
雷門のマネージャーさんの受け売りだけどね。とアイスから俺に視線を移した。
「それに……」
「それに?」
「ううん。
それより、ちょっと外に付き合ってくれる?」
「いいけど…」
それに…何なんだろう。
疑問を残しながらも空になったアイスのカップを捨てて玄関へ向かった彼女の背を追った。
夏に近づきつつある蒸し暑い道を2人並んで歩く。
おひさま園の裏にある小さな雑木林。
木の影で幾分かは涼めるけれど、それでも汗で服が肌に張り付いてくる。
「ねぇ、こんな所に何があるんだい?」
「んー?
もうちょっと行ったところにね……あっ、着いたよ。」
「、っ!」
ガサリと草むらを抜けると
色
色
色
決して種類が多い訳ではないのだが、それすらもカバーできるほどたくさんの鮮やかな花や苗が植えられていた。
中には実を付けているものもある。
「すごいでしょ?」
「ここは…」
「私の畑。
姉さんにお願いして使ってない畑で育てさせてもらってるの。」
にこやかな彼女の表情と声。
一番近くにあったトマトの苗を見ると真っ赤に熟れたミニトマトがなっている。
宝石みたいなそれはスーパーでよく見るものとは別物に見えた。
「食べてみる?」
「俺がトマト嫌いって知ってるよね。」
「いいからいいから!」
いつの間に持ってきたのか、ミネラルウォーターでトマトを洗い出す。
それを濡れた水が滴ったまま俺の口に突っ込んだ。
なんて横暴な……!
「………甘い。」
「でしょ?
自信作なんだ。」
あぁ、ここの植物たちは彼女に愛されて育てられてるんだ。
すべて彼女に望まれて生まれて来ている。
少し、嫉妬しちゃうな。
「次はね、柿の木を植えようと思って。」
「柿…?」
柿の種じゃなくて?と聞いたら失礼な、と頭を叩かれた。
「柿は8年かかるって言うじゃない?
父さんが帰ってくるくらいにちょうど収穫できるかなぁ、って思って。」
「あ…、」
よく軒下で姉さんが剥いてくれた柿を食べたっけ。
「……俺も、育てたいな。」
「なら一緒に育てようよ。」
「いいの?」
「もちろん!」
やっぱりその瞳は笑っている。
今は特に輝いていて、まるで太陽みたいだ。
「実がつく頃には22歳かぁ…。
ねぇ、ヒロトは……」
「あのさ、」
「ん?」
「柿が実ったら、結婚しようか。」
「………えっ、あの……、っえぇぇぇぇぇぇえっ!?」
真っ赤に染まった彼女はまるでさっきのトマトみたい。
俺だって内心落ち着かないけど、悟られないように何とか堪える。
彼女の表情が可愛くて仕方がない。
「返事は?」
「あ、えと……はい。」
あぁ、これで俺も望まれた命だったと誇れる。
「ありがとう、幸せにするよ。」
その瞬間に出遭うまで
ヒロト、やっと笑ったね
あのね…私はヒロトがいるから笑顔でいられるんだよ