(尾浜視点)
あの子が、まだ目を覚まさないんだ。
「…椿…。」
あの子が眠りについてから早くも七日が経つ。
もう死んだのでは、という話になったりもしたけど、俺はそんなの信じない。
優莉の取り巻きの先輩達は自業自得だと愉快そうに笑っていた。
ぴくりとも動かない手を握る。
耳を澄ませば、微かながらも呼吸の音がした。
大丈夫、まだ生きてる。
「…尾浜先輩。」
「…あぁ、どうしたの?左近。」
「ご飯をお持ちしました。今朝から何も食べてないでしょう。」
「あは。よく分かったね。」
でもごめんね、左近。
食欲が無いんだ。
そう告げれば、ギリリと歯軋りの音がした。
俯く左近の肩が微かに震えている。
「……んで…。」
「ん?」
「なんで、椿先輩がこんな目に合わなければいけないんですか…!」
ここに来て分かったことがある。
保健委員は皆、椿の味方だということ。
優莉の治療をした時、違和感を感じたのだという。
「大体、あの人のせいなんですよ!あんなあからさまに怪しい人、さっさと居なくなれば…!!」
「左近。」
膝の上でカタカタと震える左近の拳に、空いている片方の手を重ねる。
左近の瞳に戸惑いの色が浮かぶ。
「…だって…あの人が来たから…。」
「左近。椿はそんなこと望んでない。」
ちらりと眠る椿を見やる。
七日前と変わらない寝顔。
早く、早く目を覚まして。
その凛とした声を俺に聞かせて。
そして、
「…馬鹿椿。」
あの日の嘘の訳を聞かせて。
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