『私が、やったんだ。』





私の口から放たれた言葉は、何だか私の声ではないような気がした。





『私が、やったんだ。』





そう言った瞬間、頬に痛みが走った。
あぁ、私は兵助に叩かれたのだ。
そう理解するが早いか、兵助が私に勢いよくつかみ掛かってくる。
何の抵抗もしない私は簡単に床に捩じ伏せられた。
腹の上に居る兵助にただひたすら叩かれる。
今、コイツはどんな顔をしているんだろうか。
怒りに狂い、般若みたいに顔を歪めているのか。
ただひたすら、からくりのように無表情でいるのか。
視線を決して向けない私には知る由も無い。





「何でだよ、何で…!」





兵助が悲痛に叫ぶ。
叩いて、叩いて、叩いて。
ずっと兵助は私を叩き続ける。
私は何も言わない。
言えない。
ずっと視線を反らしたまま、抵抗もせず、叩かれ続ける。
それで兵助の気が済むなら、と思った。





「なんでっ…!」

『……。』

「なんでなんだよ!優莉の何が気に入らないんだよ!!なんでっ…!!」





不意に叩く手が止まった。
ただ視界の端にある兵助の拳が、指が、強く握ったせいで白くなるのを眺めていた。
私は何も答えない。
答えられない。
私はやってないのだから。





「なんで“やってない”って言ってくれないんだよ…。」





嗚咽交じりに吐き出された言葉に、涙が出そうになる。
私は兵助も苦しめていたのか。





その時、複数の気配が近付いてきているのに気付いた。
そろそろ始業の時間だからだろう。
兵助の下から抜け出して、席に着く。
決して顔は見ない。
…見たら、決心が鈍るから。
気付かれないように息を吐き出し、口を開いた。





『私が優莉をやったんだ。』





これから、私は一人で生きていく。





(壊したのはどっち?)
(背中越しに聞こえた嗚咽を、私は気付かぬ振りをした。)



 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -