『私が、やったんだ。』





あの言葉が、あの声が、あの表情が忘れられない。





『私が、やったんだ。』





その言葉を聞いた途端、兵助が椿を叩いた。





「何でだよ、何で…!」





そう悲痛に叫ぶ兵助の目からは涙が流れていた。
叩いて、叩いて、叩いて。
ずっと兵助は椿に馬乗りになり、涙を流して叩き続ける。
椿は何も言わない。
ずっと視線を反らしたまま、抵抗もせず、叩かれ続ける。
俺は、ただそれを呆然と眺めていた。





「なんでっ…!」

『……。』

「なんでなんだよ!優莉の何が気に入らないんだよ!!なんでっ…!!」





振り上げられた兵助の右手が力無く床に落ちる。
椿はその間も、決して視線をこちらに向けなかった。





「なんで“やってない”って言ってくれないんだよ…。」





ハッとした。
兵助も、やっぱり椿はやっていないと信じたいんだ。





その時、複数の気配が近付いてきているのに気付いた。
そうか、そろそろ始業の時間だ。
きっと二人も気付いたのだろう、椿は兵助の下から抜け出して、席に着く。
小さく決意したように息を吐き出してから、小さく、だけど聞こえるように言った。





『私が優莉をやったんだ。』





椿は一度たりとも、こっちを見てはくれなかった。





(壊したのはどっち?)
(彼女の背中が酷く遠く感じた。)



 


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